桐生祥秀が日本選手権で見せた成長の跡
「こんなに緊張したのはけっこう久しぶりですね。でもそこで力んで負けたというのではなくて、勝てたのは良かったと思います。ただ、予選、準決勝、決勝とタイムが落ちたというのがあったので。力が同じくらいの選手がいても、タイムを上げて決勝ではベストタイムを出せるくらいにならないといけない」。前半で負けていても、力まずに追い上げられる力は昨年より付いたと思うと桐生は言う。それに対して山縣は「桐生が関東インカレで何で10秒05を出せたのかを考えて、スタートはあまり差がつかないし後半は僕もリラックスして走ることを覚えているから、中盤の加速の部分が大きな差だと思いました。それで中盤の加速をイメージして練習に取り組んできた。彼を攻略するための絶対的なポイントはスタートだけど、今回はスタートで思ったような差をつけられなかったことも負けた原因。でもここまで近づいてこれたのは、加速の練習の効果が出ているのだと思う」と話す。 スプリンターはライバルと意識すれば、互いに相手を攻略するイメージを持って走る。だがその攻略ポイントと考える地点になると、どうしても力みが出てくるものだ。山縣は、「スタートから30mくらいまではリードしていたかったが今回はそれより前に並ばれてしまった」というが、桐生がそこから持ち味の加速を活かしきれなかったのは、山縣の課題克服への取り組みの効果だけではなく、自分の勝負ポイントでの無意識の力みが出たからとも考えられる。 「予選を見た限りでは、桐生が2位ともっと距離を開けて優勝するのではないかと思ったけど、山縣の準決勝までの上がりと、桐生自身の記録を出したいという気持が少しマイナスの影響を及ぼしたと思います」と、日本陸連の伊東浩司短距離部長は分析するが、そんな状況でも勝利したのは、桐生が速さに加えて強さも身につけたということだ。伊東部長は「僕は織田記念と関東インカレは仕事の都合で見れてないけど、世界リレーに行った時は強さを感じましたね。