なぜ日本女子卓球の躍進が止まらないのか? 若き新星が続出する背景と、世界を揺るがした用具の仕様変更
38mm→40mmへ、小さなボールを「大きく」した国際的な仕様変更
また、近年ジュニアなどの全国大会では、中学生が高校生に勝つことも珍しくない。では、卓球はなぜこれほどまでに小学生以下の年齢でも年上と対等に戦えるようになったのか。 どれだけ鍛えていても、10代前半の年齢の小・中学生と高校生~大人では「筋力・パワー」という面では見劣りするはず。しかしそこには、卓球が幼少期から年上に勝てるようになった理由がある。 卓球の公式大会用のボールは、2000年まで38mmだった。とても小さくて軽いセルロイド製のボールだった。しかし、2000年に大きさの変更があり、国際大会を含む公式戦では40mmのボールが使われることになった。「ボールが2ミリ大きくなった」のだ。 重さも2.5gから2.7gへと重くなった。これは卓球の勢力図に大きな影響を与える仕様変更となった。スピードが落ちた。回転量も落ちた。全体的に「スピードとパワーを落とした卓球」になった。 力任せでのスピードが出ない。筋肉量任せでの強い回転もかけられない。つまり“パワーで捻じ伏せる”ようなプレーができない。そうなると当然「筋力がない選手」も対等に戦えることになる。 少し極端な言い方をすれば、2000年以降の卓球は「筋力によるスピードの違いで打ち抜く」ことや「筋力による回転量で圧倒する」ことより、「ラリーが根気強く続くほうが勝てる競技」に変わっていった。 賛否の声は別として、ボールの大きさの変更を決めた国際卓球連盟には、「ラリーが高速化してしまい続かなくなった。観衆も楽しめるように。ラリーが続くように」といった狙いがあったようだ。 このあたりから、幼少期の選手が年上の選手を倒すシーンが目に見えて増えていった。
素材をセルロイドからプラスチックへ変更
2012年のロンドン五輪後、もう一つ大きなボールの変化があった。素材がセルロイドからプラスチックに変わったのだ。これもまた、大きな仕様変更だった。 ボールの大きさでもスピードと回転量は落ちるが、プラスチックになったことで、より一層ボールのスピードと回転量は落ちた。 この変更の理由は、可燃性セルロイドでは不可だった「飛行機で運ぶ」ことができるようにするためなど、いくつかの理由が伝えられていたが、やはり国際的に「スピードと回転量を落とす」「ラリーの回数を増やす」という方向に動いていることを示唆していた。 これにより、一発で打ち抜く攻防よりも、さらにラリーが続く展開が増えた。 一般的に、男子はパワーとスピードの卓球、女子はピッチの速いラリーの卓球といわれてきた。もともとラリーが続きやすい女子卓球で、スピードが落ちたらどうなるか。 より一層、「パワー」より「ラリーがよく続く正確性と根気のよさ」が求められる。 こうした流れの中で、JOCエリートアカデミーの存在だけではなく、日本卓球協会が若い有望な選手を早くから海外遠征の経験を積ませる取り組みも功を奏してきた。すべての“流れ”が噛み合って「強い日本女子卓球」と「新星が続々登場する仕組み」が確立されてきたといえる。