ゲイ、レズビアン全員が「LGBT」とは限らない...日本のマスコミが広める誤解
「LGBT」という言葉はいつ頃から使われるようになったのか
日本は、明治時代以降、たくさんの欧米の言葉(概念)を受け入れてきました。そうした外来語は、漢字(熟語)に置き換えたり、カタカナで表記したりして、いつしか日本語の一部になっていきました。ただ、受け入れの際に、本来の意味から微妙に変化してしまった概念も少なくありません。「LGBT」という言葉(概念)は、外来語の受け入れの際に、少し意味がずれてしまった現代における典型例だと思います。 「LGBT」という言葉がだいぶ流通し始めた2016年、『朝日新聞』の校閲部の方から「LGBTの言葉の歴史を教えてください」という問い合わせがありました。校閲部とは、新聞社や出版社で言葉の使い方や記事内容が正しいかをチェックする部署です。 私は「どこかに文献があると思いますよ」と無責任な返事をしましたが、その方は「かなり調べましたが、少なくとも日本語のものはないのです」と言います。「じゃあ、ちょっと調べてみますね」とその場は返事をして、調べてみたら本当にありませんでした。海外のLGBT事情に詳しい、長年の友人でもある大阪公立大学教授の東優子さんにも同じ質問がいったようで、結局、2人で連絡を取り合って調べることになりました。 その結果、「LGBT」という言葉は、もともと、欧米のGay&Lesbian「活動家」の用語であること、権利運動が先行していたL&Gが、後発のバイセクシュアル(B)とトランスジェンダー(T)を掬い上げる言葉として使われるようになったことがわかりました。 こうした語源を調べるときに必ず参照する『Oxford English Dictionary(OED)』によると、1992年のゲイニュースダイジェストに"National LGBT Studies Conference" とあるのが「LGBT」の初出であることがわかりました。ところが、同時期に「GLBT」という言葉もあり、その初出は1993年です。つまり、1990年代前半には「LGBT」の並びが固定していなかったことがわかります。 東教授が欧米の活動家から聞き取ったところを要約すると、「1980年代でも使っていたように思うがよく覚えてない、1990年代には間違いなく使っていた。そう言われると、順番は決まっていなかった。なぜLGBTの順番になったかはジェンダー平等を目指す流れの中で、Lを先にもってくるようになった」ということで、OEDと、おおよそ同じ結果でした。つまりは「活動家用語」ということです。 活動家の間で使われていた「LGBT」が、公的な文書で使われた最初は、2006年の「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの人権についてのモントリオール宣言(Declaration of Montreal on Lesbian, Gay, Bisexual and Transgender Human Rights)」と思われます。4つのカテゴリーを羅列するとたしかに長いです。その省略語として、以後、国際連合を中心とした人権運動の用語として広まっていきます。