ゲイ、レズビアン全員が「LGBT」とは限らない...日本のマスコミが広める誤解
当初、「LGBT」ではなく「LGBTI」だった
日本の新聞に「LGBT」の言葉が登場した早い例としては、『朝日新聞』2004年1月23日付朝刊の国際面「地球24時」の「ことば・ワールド」で、「同性愛者・両性愛者・性転換者」といった注記がされています。しかしこれは、通信社配信(AFP→時事通信→朝日新聞)の記事で、『朝日新聞』のオリジナルではありません。 私が「LGBT」という言葉を最初に知ったのは、2003年12月に台湾で開催された国際シンポジウム「跨性別(トランスジェンダー)新世紀」に参加したときでした。「へ~ぇ、そういう言い方をするんだ」といった感じでした。自分で最初に使ったのは、2005年にタイのバンコクで開催された「第1回アジア・クィア・スタディーズ学会」の報告記を書いたときだったと思います。 日本で書籍名に「LGBT」を使った最も早い例は、2007年出版の藤井ひろみ・桂木祥子・はたちさこ・筒井真樹子編著『医療・看護スタッフのためのLGBTIサポートブック』(メディカ出版)です。これは、例外的に早く、編著者の筒井さんが英文翻訳者で、アメリカの事情に通じていたことによるものか? と思われます。 ここで注目すべきは「LGBT」ではなく、「LGBTI」になっていることです。世界的にはインターセックス(性分化疾患)を示す「I」が入っているほうが一般的で、2007年の段階ではそれがすんなり輸入されていたことがわかります。 そこから「I」が落ちて「LGBT」になった事情は簡潔に言いますと、一部の「I」当事者たちから強い要望があったためです。前にも述べたように「LGBT」は政治的連帯を示す概念ですから、「そういう人たちとは一緒にやりたくない!」といったホモフォビア(Homophobia 同性愛嫌悪)、トランスフォビア(Transphobia トランスジェンダー嫌悪)の人たちを一緒にする必要はありません。 一般メディアで「LGBT」が使用されるようになったのは2012~2013年頃からで、2015年以降、日本社会に広まり大きなブームになっていきます。そのきっかけは、2012年夏、『週刊ダイヤモンド』が7月14日号で、「国内市場5.7兆円「LGBT市場」を攻略せよ!」という特集を組み、同日発売の『週刊東洋経済』が「知られざる巨大市場 日本のLGBT」という特集を組んだことでした。 ライバル関係にある二大経済週刊誌が、同日発売号で同様の特集を組む、そんな偶然がはたしてあるでしょうか? 私は、当初から「仕掛け人がいる」と考えていました。ここで留意しておかなければならないのは、日本のマスメディアで「LGBT」に最初に注目したのが経済誌だったことです。つまり経済的な視点、新たな経済市場(儲けるネタ)としての注目でした。 人権的視点ではなく、経済的視点から始まったことは、その後の日本の「LGBT」ブームに影を落とすことになります。なお、自治体で最初の使用例は、2013年9月、大阪市淀川区役所の「LGBT支援宣言」でした。
三橋順子(性社会文化史研究者)