【全文】BBC日本語版開設(中)「ソーシャルがニュースの編成に影響力」
最終的に視聴者がニュースを定義する(イーガン)
加藤:ありがとうございます。すいません、またBBCの話に戻しますけれども、ではジム。そういういろんなニュースの種類が増えている、ファッションとか星占いとか恋愛とかそういうものもどんどん、例えば日本ではSmartNewsとかのメディアがこれはニュースだよと言うことで、ニュースのようになってきている。BBCはそういうニュースの定義とかニュースの範囲を広げてきていると思いますか。なんて自分の上司に聞いてるんですけど。 イーガン:最終的にはニュース放送機関というのは、ニュースが何かっていうことは私たちは定義するのではありません。視聴者がニュースを定義するのです。ですから、私たちがこのビジネスを続けるのであれば、それを継続しなければならない。例えばBBCにとってもソーシャルメディアは、非常にいろいろなニュースの背景を表すには非常にいいツールであるということ。そして視聴者をエンゲージさせるのにはとても良いということが分かりました。 私自身は、特に若い人たちをニュースに関心を持たせるにはとてもいいと思いますけれども、若い人たちはもうすでに学校とか大学で非常にニュースに関心があるんです。ただ、私たちが昔やったのとは違うと思いますけれども、新しい形でのニュースの報道の仕方、新しいニュースの内容というのが重要になってくると思います。 私たちが本当のニュースには関心がないというとかっていうのではないです。そういうのが、これはうそです。例えばセレブのゴシップだけに関心があるということは関係ないと思います。
下からボトムアップでアジェンダをつくっていく(津田)
加藤:ということになるかと思うんですけれども、何がニュースかとか、アジェンダビルディングですね、何がニュースって、津田さんがこれはニュースだっていうことで発信されることで、そうなんだって思う人も増えると思いますし、津田さんのような方がいらっしゃることで、ニュースなんて要らないよっていう人も減ってきたのではないかなと、個人的に思っているんですけれども。 津田:いや、そこまでの影響力は僕はないと思いますけど。 加藤:ご謙遜ですけれども、アジェンダビルディングというキーワードについても少しご説明いただけますか。 津田:そうですね。僕自身がやっぱりちょっと変わった経歴で、今、やってることもちょっと変わってると思うんですね。なぜかって言うと、平日、今、毎日テレビに出て、ニュース、いわゆる伝統メディアで毎日出演してネットの話題をしているっていうこととともに、一応もう1つ新聞でも、朝日新聞で今、論壇委員っていうのをやっていて、新聞に原稿を書いたり雑誌で、オールドメディアで仕事もする、しつつ、自分で有料と無料のメディア2つやっていて、そこで情報発信もしているっていうことなんですけど、じゃあなんでそんなにいろんなことに手を出してやってるのかっていうと、やっぱり自分自身の経験がすごく大きいんですね。 もともと僕、雑誌のライターからキャリアをスタートして、しかもそれがITとかインターネットっていう非常に動きの速い業界の雑誌で書いていたんですね。で、今、最盛期は2000年ぐらいだったんですけども、そのころに15誌ぐらいで雑誌があったんですけど、僕はそのうち11誌ぐらいで書いてたライターだったんですが、今、その15誌、1個も残ってないです。全部廃刊しました。もう2002年ぐらいにブロードバンドが出てきて、あと、Googleが出てきて、ネットのことは別にネットで検索すればいいよねって時代になって、自分はそれで職を失ったとも言えるわけですけども、ただ、であればいちライターとしては食っていけないので、生き残るためには、じゃあこういう変化みたいなものを取材した、じゃあそれを論評するジャーナリストになるしかないと思って、2003年ぐらいから僕は役割を変えていったんですが、それは本当にジムさんの、時代に合わせて変わっていかないとメディアっていうのが生き残っていけないっていう話は、すごく僕は共感する部分でもありました。 その上でアジェンダビルディング、ここ、やっぱり5年ぐらい、何が変わってきたのかって言うと、やっぱりアジェンダが変わってきたっていうことなんですね。通常、ジャーナリズムっていうのは大きな機能として、国民が議論するためのアジェンダ、議題を設定する、セッティングするっていうことが大きな機能だったわけですね。それは言い換えると編成とか、テレビで言えば編成、紙面で言えばどれが大きなニュースなんだよっていうことを新聞社やテレビ局っていうのが判断して大きくそれを、ニュースの重み付けっていうことをメディア自身が持っているということに大きな価値があった。 そのセッティングっていうのは、でもやっぱり上からですよね。上からセッティングして、皆さんこのニュースが重要なんで読んでくださいよねっていうこと。やっぱそれに対する反発みたいなものが、まあそれで田端さんの回転ずしとかともつながるのかなと思います。 ただ、ジムさんがさっき、冒頭のときに言ってたように、やっぱり取材して、ちゃんとそれを検証して、分かりやすい形で視点を提示していくっていうことは、これは編集の機能というか、記者の取材のこのベースの部分は変わらないと思うんですね。ただ、ベースの部分は変わらないんだけれども、何がそれに対して大きなアジェンダになるのかということが、おそらく編集は変わらないけど編成の概念が、スマホとかメディア環境が変わったことによっておそらく変化しているっていうのが今、ここ本当に4、5年、顕著になっていることなのかなと思うんですね。 なので、ニュースを作るという意味で言うと、ここ1、2年、本当に顕著に見られるのが、自分たちでソーシャルメディアとかで、あまり話題になってないけれどもこれは大きなニュースであるっていうのを、ネットで炎上というか、騒ぐ、騒いで大きく話題にする。また、これは国際的に見たらちょっと、日本のガラパゴスな環境では話題になってないけれども、国際的に見たら、おい、すごいことだぞ、みたいな、主に差別系のネタとかはもう今、Twitterユーザーが英訳して、ここでこんなことが起きてますよっていうのを全部のTwitterアカウントとかに投げて、そうしたらそれが1~2日後ぐらいに海外メディア、まさにBBCなんかもそうですけれども、がニュースとして取り上げるっていう現象が起きてきている。 最近だったらシリア難民のイラストをやゆした、日本の漫画家がやゆしたことが、BBCが報じたことで世界的に大きなニュースになっていったってこともありましたし、ああいうことが、かつてだったら起きなかったようなことが起きている。 だからやはりTwitterユーザー、読者の人たちがやっぱり編成に対して影響力を持つようになっているし、下からのボトムアップでアジェンダをつくっていく。これこそが今報じるべきニュースなんだっていうことが起きているし、それがよりスマホになって、TOPページから何かのニュースを見るんではなくて、ソーシャルで流れてきたもの、これを騒ぐことによって大きくなっていくっていう、こういう逆流みたいなことがすごくトレンドとして起きているなと思いますね。