森永卓郎「ステージIVの膵臓がん。来年の桜は見られないだろうと言われても、抗がん剤治療、オプジーボ投与で〈後始末〉のために」
がんの公表後、私のもとにはいわゆる「がん治療に効くアドバイス」が1000件近くメールで寄せられました。 もちろん情報としては玉石混淆なのですが、マネージャーがそのなかから、がんの治療とは直接関係がないものの、いわば栄養ドリンクのように「弱り切った体を元気にする点滴」を受けられるクリニックの情報を見つけてくれて。 「このまま何もできずに死んじゃうより、一か八か賭けてみよう」と考えた私は、その日の夕方にクリニックへ行き、点滴を受けました。すると運よく賭けは当たり、翌日の朝には飲んだり食べたりものを考えたりすることができるようになったのです。 しかし抗がん剤の影響で体はボロボロ、血中のたんぱく質の数値などは軒並み激減、免疫もガタ落ちでした。そんな状態でもしコロナにでも感染したら、ひとたまりもありません。 そこで、体力を戻す目的でひとまずクリニックへ入院し、朝から晩まで多種多様な点滴を受け続けました。2週間ずっと寝たきりだったので、筋肉がすっかり落ちて、退院する時は車いす。 とはいえ、ベッドの上でも口述筆記で原稿を仕上げられたのは、本当にありがたいことでした。
◆「原発不明がん」と診断された さらに私は入院先から一度抜け出して、がんに関連する遺伝子を調べる血液パネル検査というものも受けました。アメリカまで血液の検体を送って調べた結果、「95%の確率で膵臓がんではない」とわかった。 じゃあ何のがんなのかといえば、それがわからないという。結局私の場合は、体内に転移したがんがあることはわかっても、発生した臓器がわからない「原発不明がん」という診断になりました。 私たちの体内では日々、がん細胞と免疫細胞が闘っています。何らかの原因で免疫細胞の勢いが落ちると、がん細胞が増えてしまう。そこで免疫細胞の力を強めてがんに勝とうとするのが、免疫療法です。 現在私は、自分の血液から免疫細胞を取り出して培養し、増殖させてから戻す「血液免疫療法」を2週間に一度、「オプジーボ」というがん免疫療法薬の投与を4週間に一度行う治療を続けています。 1月に治療を開始し、「今年は見られないかも」と言われた桜の時期も過ぎ、5ヵ月経った現在も体調は小康状態です。 CT画像で見てもがんの浸潤は拡大しておらず、免疫細胞とがん細胞のどちらが優勢か判断できない拮抗状態にある。オプジーボは数ヵ月で効果が落ちてくる人が多いなか、非常にレアなケースだと担当医から聞きました。 しかし私にはあと一つ、「後始末」としてやらなければいけないことがある。それはこの春2年生になった、大学のゼミ生の指導です。昨年のうちに選考をしてメンバーを決めたのに、年末に倒れてしまって指導が十分にできていないこと。 経験上、半年あれば私の「森卓イズム」を叩き込めるはずなので、なんとか9月まで――欲を言えば彼らの卒業までの2年半、現状維持を続けていきたいというのが今の願いです。 (構成=山田真理)
森永卓郎
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