かめおかあきこさんの絵本「ねんにいちどのおきゃくさま」 “好き”のかけらが集まって生まれたデビュー作
ひたむきに自分の道を究めて
―― 近作『かんばんのないコーヒーや』(ほるぷ出版)は、実際にあるコーヒー屋のマスターをモデルとした物語だ。ふらりと入った看板のないコーヒー屋で飲んだコーヒーの味に心を奪われ、自分でもその味を再現しようと何年もかけて研究を重ねていくオオカミくんの生き様を描いた。 どこのコーヒー屋さんかは明かせないのですが、実際に私が何度も行ったことのあるお店のマスターをモデルにしています。 そこのコーヒーのあまりの美味しさに感激して何度も通ううちに、マスターのコーヒーに対する思いやそれまでの人生についてお話を伺うようになったんですね。マスターのお話は聞けば聞くほどドラマチックで、これはぜひ絵本にしたい!と思うようになって。それまでテレビ取材や小説化などの話があってもすべて断っているとのことだったので、無理だろうなと思っていたんですが、ダメもとで絵本にしたいと思いを伝えたら、OKをいただくことができました。 絵本にするにあたって、登場人物をすべて動物にしたり、コーヒーではなくどんぐりコーヒーにしたりはしましたが、それ以外はなるべく脚色せず、事実に基づいて忠実に描くよう心がけました。 ―― 究極の味を求めてコーヒーを作り続けるオオカミくんのひたむきさは、効率重視の時代には稀有かもしれないが、ひたすら絵の道を歩んできたかめおかさん自身の人生とも重なる。 私には、オオカミくんにとってのくまマスターのような、直接的に師と呼べる方はいませんが、ユゼフ・ヴィルコンさんの絵本からはたくさん刺激を受けてきました。ヴィルコンさんの絵本を何作も出している出版社に持ち込みしたときには、「ヴィルコンの絵に似すぎている。真似ではなく、技術を盗んで、自分のものにしないと」とアドバイスされたこともありました。 絵本作家を目指していた時期と、絵本作家になってからもしばらく、ちひろ美術館・東京で学芸のアルバイトとして働いていたのですが、作品の額装補助を担当していたので、額に入っていない状態の生の絵をじっくり見ることができたんです。それもとても勉強になりましたね。目ばかり肥えて、自分の絵が未熟に思えたこともありましたが、いつか自分もこんな絵を描きたいという思いは強まっていきました。 『かんばんのないコーヒーや』は漫画のようなコマ割りと吹き出しの台詞で進んでいくのですが、これは子どもの頃から大好きだったレイモンド・ブリッグズの『さむがりやのサンタ』(福音館書店)の影響も大きいです。憧れの作家さんの作品の数々が、私にとっての師のような存在なんだろうなと感じています。 今の時代、何でもすぐに結果を出したい、余計な時間をかけずに成果を上げたいと考える方も多いかもしれませんが、教えてもらったことをするだけでは、それ以上の成長はありません。時間をかけて、失敗しながらも経験を積み重ねていってこそ、自分の力になっていく。『かんばんのないコーヒーや』を読んでくださる方々にも、そんなことが伝わったらうれしいなと思っています。 <かめおかあきこ(亀岡亜希子)さんプロフィール> 絵本作家 1971年、山形県米沢市生まれ。東北生活文化大学生活美術学科卒業。デザイン会社勤務、ちひろ美術館・東京でのアルバイト勤務を経て、「オコジョのタッチィ」シリーズ1作目『ねんにいちどのおきゃくさま』(文溪堂)で絵本作家デビュー。その他の作品に『とうみんホテルグッスリドーゾ』(岩崎書店)、『どんぐりのき』(PHP研究所)、『かんばんのないコーヒーや』(ほるぷ出版)などがある。 https://www.instagram.com/akikokameoka (文:加治佐志津)
朝日新聞社(好書好日)