かめおかあきこさんの絵本「ねんにいちどのおきゃくさま」 “好き”のかけらが集まって生まれたデビュー作
季節の移ろいを絵本に描き込む
―― 物語の中盤、クリスマスを目前にタッチィが雪深い山を下り、麓の町へとトムサおじいさんを探しに出かけるシーンは、2見開き4ページ文章が一切なく、絵だけで展開している。 イタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニの作品が好きで、昔からよく観ていたんです。映画でも映像だけで見せるシーンがありますが、台詞がなくとも映像からいろんなことが伝わってきて、見る人の心を動かします。絵本でもそんなことができたら、という思いがあって、絵だけで見せるページを入れました。 それと、私は子どもの頃から安野光雅さんの『旅の絵本』(福音館書店)が大好きだったんですね。『旅の絵本』は文字のない絵本ですが、言葉で語らなくても、読む側が絵からいろんなことを想像して楽しむことができます。自分の絵本もそんな風に楽しんでもらえたら、という気持ちもあったかもしれません。 タッチィが麓の町に着いて、クリスマス前の賑やかな街並みを見上げるシーンは、最初は全体的にもう少し暗いトーンの絵でした。窓の中を暗めの色で描いていたので、ここまで華やかな感じではなかったんですが、編集者さんからのアドバイスもあって、原画をまるまる描き直しました。明るくカラフルな街並みに描き替えたことで、タッチィが初めて見る街並みに驚く様子がより伝わるようになったんじゃないかなと思います。 ―― タッチィとヤーコポの再会の場面は、手を取り合う二人を中心とした縦開きの画面構成や暖色系の色合いから、あふれんばかりの喜びが伝わってくる。 25年も前に描いた絵なので、今見ると未熟だなと思ってしまったりもするんですが、この頃の方があまり深く考えずに、空間を自由に使って描けていたなとも感じますね。 どの絵も白い紙に直接描くのではなく、ポスターカラーで塗った上からパステルで描いています。下塗りの色は場面によって変えるのですが、そうすることで同じ赤でも全然違った赤に見えるんです。昔から憧れていた、ポーランドの絵本作家ユゼフ・ヴィルコンさんが色紙に描いていたのを知って、そのような技法にたどり着きました。 ―― 続編となる『はるをさがしに』『なつのやくそく』『あきにであったおともだち』(いずれも文溪堂)も含めて、「オコジョのタッチィ」シリーズでは、美しい自然と季節の移ろいもしっかりと描き込んだ。 私は山形県米沢市で生まれ育ちました。米沢市は盆地で、まわりのどこを見ても山が連なっているんですね。夏は暑く冬は寒く、季節の移り変わりがはっきりしていて、冬には雪もかなり降ります。真っ白だった山の色が鮮やかな緑、紅葉の赤、黄色へと、季節によって変化していく様子を子どもの頃からいつも見ていたので、絵本にも季節ごとの自然の風景を描きたいと思いました。 登場する人間たちの住む家や街並みはヨーロッパ調なんですが、それは絵本を開くことで、ここではないどこかに行ったような気分を味わってほしいから。建物や町の風景は、学生時代にイタリアやフランスを訪れたときに撮った写真や、写真集で見たスイスやドイツの風景を参考にしました。自分でも、どこか違う世界に住んでいるような気持ちになって描いていた記憶があります。 シリーズ4作目となる『あきにであったおともだち』が出てから17年経ちますが、編集者さんとは、オコジョのタッチィと仲良しのくまさんの絵本を作りたいねと話しています。いつか描けたらいいなあ(笑)