「ゴジラ博 in 大阪」 破壊されていく大阪の景色は、東京破壊とは異なる強烈な印象を与える
ゴジラ好きは何度でもゴジラを体験したい。これまでも、着ぐるみや撮影小物やジオラマが展示された展覧会は開催されている。だが、昨年「ゴジラ-1.0」が大ヒットし、さらにちょうど、ゴジラ公開満70年となるこの秋に、「ゴジラ博」を体験しない理由はない。かく言う筆者は、今夏、一足早く東京・日比谷で開催された「ゴジラ博」を2回観覧した。初めて目にした貴重な展示品も多く、長い付き合いの畏友(いゆう)のアルバムを見るようで胸が熱くなった。その体験を基に11月2日から始まる「ゴジラ博 in 大阪」を紹介したい。 【写真】盆栽代わり?! 家に一つ欲しい! 「ビオランテ」の可愛らしい小さな模型
思い膨らむゴジラの王国
一歩、会場に足を踏み入れると、ゴジラの王国である。歴代のゴジラがずらりと待ち受ける。ゴジラを引き立ててくれた敵役も雄姿を現す。想定されたサイズの何十分の一なのに、頭が勝手に縮尺を合わせるので「大きい!」「怖い!」。 実は「すごんでいるゴジラ」はあまり怖くない。気張った表情も頂けない。力むのも空威張りに見える。放射能熱線を吐く前に、タメを作るなどもってのほかと思っている。古いファンの感想だろうか。でも、それは、ここで「ナマ着ぐるみ」を見比べてもそう感じてしまった。普通に呼吸している表情なのにフワッと放射能が漏れるから怖いのではないか。だから、荒々しい彫刻的造形の初代が断然怖い。その70年後、「恐怖を描ききった」と高く評価された「-1.0ゴジラ」の姿は筋肉質で生命感があるがゆえに生物的であり、睥睨(へいげい)する表情が逆にどこか脆(もろ)そうである。評価されたあの「恐怖」は山崎貴監督の演出手腕によるところが大きいのではないかと、改めて感じた次第。そう、入場しただけでこんなに思いが膨らむのだった。
映像の凄さを裏付ける〝本物〟
この博覧会は、言うまでもなく「キング・オブ・モンスターズ」であるゴジラを映画製作や特撮技術の視点から捉え直すイベントである。初代映画「ゴジラ」の公開は1954年11月3日。原爆投下からたったの9年。ビキニ環礁水爆実験は54年の3月1日なのだから「直後」と言ってもいい8カ月後にゴジラは、我々の前に立ち現れた。その衝撃たるや筆舌に尽くしがたいものであった。とはいえ、あくまで「映画」のなかの存在である。映像のショックにより我々の脳が「生々しいゴジラ像」を現実の記憶のように刻み込むのだ。小説に起こされても漫画化アニメ化されても、映画の中にあってこそ輝くアイコンと言えよう。 でも、でも……。それが小道具大道具、あるいはセットと同じ種類の映画撮影のための「物体」であると分かっていても「本物」を見たいと思うのはゴジラファンのみならず映画ファンの根源的欲望ではないだろうか。ゴムの削りかすがくっついたような初期の着ぐるみや仕掛け丸出しの頭部のギニョールをじっくり見ても、百年の恋が冷めることはない。それどころか、あの映像の凄(すご)さを裏付ける根拠として脳内に落し込まれるのだ。