「ものづくり」とグローバル・サプライチェーンマネジメント
富野 貴弘(明治大学 商学部 教授) 経済ニュースの中で聞く機会の増えた「グローバル・サプライチェーン」という言葉。グローバル化によって、製品のものづくりに非常に多くのプレーヤーが関係するようになり、サプライチェーンが複雑化しています。その基本的な性質や企業のマネジメントについては、どれだけご存知でしょうか。生産管理論を専門とする富野貴弘教授が解説します。
◇Amazonの強みは在庫管理と自社物流 ものを売る企業にとって、市場の需要にあわせて製品の生産量や在庫を調整したり、原材料等を最適なかたちで調達するといった生産管理の業務は、長期的な利益の獲得を目指す上で非常に重要です。 たとえばAmazonの強みのひとつは、優秀な在庫管理にあります。アマゾンジャパンは2024年現在、日本国内に27のフルフィルメントセンター(物流拠点)と50以上のデリバリーステーション(配送センター)を有しており、それらが即日配送を可能にする圧倒的な自社物流システムを支えています。 さて、AmazonなどのEC(ネット通販)で買い物をすると、クリックひとつで即座にあらゆる製品が出来上がり、即座に私たちの手元に届けられるような気分にさえなります。しかし、生産管理の目線で見るときは、「ものづくりには必ず時間がかかる」という当たり前のことを決して忘れてはいけません。 私たちが手にしているスマートフォンなどの製品は、原材料や部品の生産から始まり、それらが組み立て加工されて完成品となったあと、物流網を通じて販売店へと配送されます。ECでは直接店頭こそ介しませんが、いずれにせよ「重さと形があるもの」の場合、どうしても生産と輸送にかかる時間はゼロにはできないのです。 このような連続したものづくりプロセスのことをサプライチェーン(供給連鎖)といいます。そして、この全体の流れをよどみなく止まらないようにコントロールするのが、サプライチェーンマネジメント(SCM)という経営管理手法です。 現代においては、さまざまな製品のサプライチェーンが複数の国や地域にまたがって複雑に絡まっており、また、関わるプレーヤーの数も多くなっています。たとえると長いリレー競技のようなもので、走者が一人でも欠ければゴールできませんし、パトンパスの巧拙が企業の競争力を大きく左右します。 2020年からのコロナ禍では、世界中のサプライチェーンが各所で寸断し、様々な製品の生産に甚大な被害が生じました。また、大地震などの自然災害もサプライチェーンの混乱をたびたび引き起こしています。 こうした事態に備えるためには、あらためてグローバルなSCMの現状と仕組みを理解しておく必要があります。またコロナ禍を経て、製造を国内回帰すべきだとの声も聞かれますが、仮にそれが可能だとして、企業の競争力にどのような影響を与えるかという点をしっかり検討するべきです。