「ものづくり」とグローバル・サプライチェーンマネジメント
◇災害時に重要なのは「立ち上がる力」 いずれにしても、「ものづくりには時間がかかるが、どうしても予測は外れる」という基本的な問題に、グローバルSCMは常に直面せざるをえません。 その上で、自然災害や紛争からどうやってサプライチェーンを守るかという論点について述べますと、私の意見としては、予知できない種類の事柄への備えとして余計な在庫を積み増したり、安易に調達先を分散する等の対策をとることには慎重になるべきではないかと考えます。 まず、調達先を一定の地域に集中させずに供給網を複線化するのは、言うだけなら簡単ですが、グローバル・サプライチェーンにおいては現実問題として難しいです。たとえ小さな部品ひとつでも、求める品質を満たせるのはたった一社のみというケースは少なくありません。 また、調達先を複数の国・地域へ広く分散させると単純にコストが増大する可能性が高まります。経済合理性を超えた目先の対応によってサプライチェーンの競争力が落ちてしまっては本末転倒です。 それよりもむしろ意識したいのは、サプライチェーンが壊れたときにいかに早く復旧させるかという点です。2011年の東日本大震災では半導体メーカーの工場が被災し、自動車用マイコンの供給が止まりましたが、日本の自動車業界は持ち前の現場改善力を注入して支援し、結果、復旧まで10カ月以上といわれていたものを3カ月で成し遂げました。転ばないこと以上に重要なのは、立ち上がる力なのです。冬のスキーでも、最初に習うのは転んだときの起き上がり方だったことを覚えている人も多いと思います。 迅速な復旧のためには当然、どこが壊れているかを把握しなければなりません。コロナ禍では、多くのメーカーが直接的・間接的な取引のある企業を深いレベルで点検したようです。たとえばトヨタは東日本大震災の経験から、富士通と共同でサプライチェーンデータベース「RESCUE」を構築しており、膨大な数の部品やサプライヤーの情報を見える化したことが、コロナ禍での生産回復に寄与したとされています。 ものづくりというのは、多くのプレーヤーが注文を聞き、ものを運び、加工し、組み立て、送り出し、お客さんの手元に届けるという、非常に手間と時間のかかる行為です。すべてをロボットがやってくれるわけではなく、現場では必ず人が携わっています。 IT・デジタルコンテンツ全盛の現代において、消費者が意識することは少なくなったように感じられますが、私たちが手に取るものの裏には地道で大変な営みがあるという事実を忘れないでほしいです。そして、だからこそものづくりの世界は面白いということを、私たち研究・教育機関の側からも伝えていけたらよいと思っています。
富野 貴弘(明治大学 商学部 教授)