「ものづくり」とグローバル・サプライチェーンマネジメント
◇ZARA、ユニクロのSCMのストロングポイント 一般的にリードタイムが長いほど予測は難しくなり、欠品や在庫問題のリスクが高まります。とりわけ、気候や流行の影響を大きく受けるアパレル製品は、市場に即応できるSCM体制の構築が昔から求められてきました。 しかし、これに成功しているメーカーは多くありません。アパレル業界は、川上から紡績・製糸、生地製造、染色、付属品製造、縫製、企画・デザインを担うメーカー、商社・卸、そして小売と、多段階かつ複雑なサプライチェーンとなるがゆえに、全体のリードタイムは半年から1年が平均です。つまり、産業構造として見込み生産にならざるを得ないのです。 逆に言えば、この要即応性と長いリードタイムという矛盾にうまく対応できる企業は、それだけ競争優位を得ることができます。ここでは、世界と日本のアパレル市場でそれぞれ売上トップを誇る2社の事例を見てみましょう。 1社目は「ZARA」ブランドで知られるスペインのインディテックス社です。企画から店頭到着まで最短3~4週間という非常に短いリードタイムを誇る同社は、シーズン中に市場のトレンドを見極めながら短サイクルで製品を投入し、売り逃しと在庫の同時削減を実現しています。まさに文字通りファストファッションです。 同社のSCMの特徴は「製品に応じた生産拠点の使い分け」にあります。生産拠点は本社があるスペインなどの欧州と東南アジアに分かれており、作られた製品は一度全てスペインに集約され、そこから飛行機とトラックで全世界の店舗へスピード配送されます。なかでもサプライチェーンが短いのは、スペインや周辺国の工場で作られる製品でファッション性の高いものが中心となります。 それに対して、遠隔地の東南アジアで低コスト生産するのは、セーターやTシャツなど比較的需要予測がしやすい服です。実需に即応するメリットの高い製品はコストがかかっても短いサプライチェーンを、それ以外は比較的ゆっくりと安定生産する長いサプライチェーンを、というふうに巧みに組み合わせているのです。 2社目は「ユニクロ」を展開する国内トップのファーストリテイリングです。同社のSCMを語る上での要諦は、「LifeWear(究極の普段着)」というコンセプトにあります。 主力商品を需要が読みやすいベーシックなアイテムに絞り、かつ、ヒートテックのような長く万人に売れる定番商品を開発して、主に東アジアの委託工場で低コスト生産しています。流行に左右されるのが常のアパレル業界においては、一種の逆転の発想です。 生産に関しては、週単位での生産計画変更と柔軟な価格改定による在庫調整は行なっていますが、一般的なアパレル製品と同じく約1年をかけています。したがってユニクロはファストファッションではありませんし、品質に対するこだわりも非常に強いです。実際、私が世界中のアパレル生産を請け負う工場で調査をしたところ、担当者は「ユニクロの品質要求レベルは、欧米企業とは比べものにならないほど高い」と述べていました。