阪神、阪急、阪神ときたオーナー交代劇 今度は阪神が“結果”をだす順番/寺尾で候
<寺尾で候> 日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。 ◇ ◇ ◇ 来シーズン球団創設90周年を迎える阪神球団が、オーナー交代のトップ人事を敢行して刷新された。25年1月1日付で杉山健博から、阪神電鉄会長・秦雅夫がオーナー職に就く。 日本に“社長”は大勢いるが、プロ野球オーナーは12人しかいない。秦は電鉄本社社長に就任した17年当時を引き合いに「その時よりもプレッシャーを感じている」と素直にもらした。 杉山は23年から2シーズンの短命だった。ただ阪急阪神ホールディングス(HD)が描いた戦略で、岡田彰布がリーグ優勝、日本一に導いたのだから強運オーナーを証明した。 杉山は初の阪急出身のオーナーだった。秦も再び阪神生え抜きに入れ替わったのを問われる用意はできていたはずだ。「阪神とか、阪急とか、そんなことは考えたことがない」と一応は振り切った。 ただ「従前に戻したという感じだ」とだけ付け加えている。“従前”という一言が、一連の流れの異例を示していた。その言葉の意味をひもとくには、ずいぶん前に時計の針を戻さなくてはならない。 手元には当時取材した膨大な資料がある。05年投資会社「村上ファンド」(村上世彰代表)が阪神電気鉄道、阪神百貨店の株式をひそかに大量保有。阪神タイガース上場など数々を提案されて経営支配された様相だった。 世間は「タイガースが乗っとられる!」と大騒動になったものだ。拙者が現場キャップだった04年の球界再編に続いて起きた“事件”でテンヤワンヤ、その顛末(てんまつ)が06年阪急HDとの経営統合だった。 阪神は阪急に助けを求める形で株式公開買い付け(TOB)を実施する。阪急HDは阪神電鉄を完全子会社化し、10月1日に阪急阪神HDが発足。当初は“対等の精神”が強調されたが、阪急の影響力が強まるのは必至だった。 それにプロ野球オーナー会議では「球団の事実上の保有者の変更」と認定され、新規参入球団扱いで、預かり保証金など計30億円の支払いを求められた。つまり阪神の“身売り”と判断されたわけだ。 これに対して阪急HD社長・角和夫(現代表取締役会長兼CEO)が「タイガースは従来通り阪神電鉄のもの」と反発し、球団オーナーに就いたばかりの宮崎恒彰、シニアディレクター星野仙一らが再検討と減免を要求し続けた。 コミッショナー根来泰周が角と面談後、再びオーナー会議が開催される。宮崎から「HD」「電鉄」「球団」の3者連名で永続的球団保有の誓約書と、球団人事は阪神電鉄内で決定する内部合意書が示される。 そのかいあって、最終的には全球団が阪神の経営統合後も阪神電鉄が球団を保有するという説明に賛同し、計29億円の免除が決まった。現場で取材していても阪神の“意地”を感じさせたものだ。 2年前の阪急阪神HDは、阪急から杉山をタイガース再建のためオーナーに送り込み、監督経験のある岡田でリーグ優勝、日本一達成を果たす。グループ最高首脳の角も、杉山の球団オーナーは短期間の任務を明言していた。 今回はその指針通り、杉山に代わって、阪急電鉄トップの秦にバトンタッチされたわけだ。統一的支配下のHD内人事として、今後も同じような事態が起こり得ることは考えられる。 阪神、阪急、阪神ときた交代劇。秦が「素直に考えてもらったらいい」と語ったのはグループ内のフラット化を示唆したものだろう。未知数の藤川球児を監督に据えた新たな船出。今度は阪神が“結果”をだす順番だ。(敬称略)