『放課後カルテ』松下洸平が“学校医”から“保健室の先生”に 牧野がノックした羽菜の心の扉
『放課後カルテ』(日本テレビ系)では、学校医の牧野(松下洸平)がやたらと児童のために走らされるシーンが多い。怪我をした児童のもとに駆けつけたり、あるときは家に戻らない児童を探し回ったり。理由はさまざまだが、その足取りは重く、どこか「なんで俺が」という空気が漂っていた。 【写真】篠谷(森川葵)と話す牧野(松下洸平) しかし、第4話で牧野は初めて自分の意志で一人の生徒のために駆け出す。主題歌「どんな小さな」(wacci)をバックに背筋を伸ばして疾走するその姿は、牧野が“学校医”から“保健室の先生”になったことを物語っていた。 牧野が向かった先は、6年2組の生徒・羽菜(小西希帆)の自宅。彼女は、牧野も同行した野外宿泊学校でクラスメイトの一希(上田琳斗)を川に突き飛ばしていた。現場を目撃した牧野から報告を受けた担任の篠谷(森川葵)は、いつも大人しくて落ち着いている羽菜がそんなことをするとは信じがたく困惑する。 だけど、大人びた啓(岡本望来)が本当は寂しさを抱えていたように見えるものだけが全てじゃない。事実、両親が不仲の家庭で育った羽菜は、孤独感からつねに破壊衝動を抱えていた。クラスメイトたちが仲良くしているのを見ているだけでも苛立ち、1学期の時にみんなが一致団結して作った七夕飾りを壊してしまった羽菜。その現場を一希に見られてしまい、みんなにバラされるのではという恐怖で咄嗟に突き飛ばしてしまったのだ。 幸いにも大きな怪我はなく、擦り傷だけで済んだ一希は牧野が少し目を離した隙に羽菜とを救護室を抜け出す。いつも予測不能な行動で周囲を困らせ、七夕飾りが壊されたときも真っ先に疑われた一希。なぜ先生に怒られることをするのかという羽菜の質問に、彼は「ワクワクしている間は嫌なこと忘れる」と答える。 大人からすれば、問題に見える行動も、実は一希にとっては自分の心を守るための処世術なのだろう。それができなくて不平不満を他人への攻撃に変えてしまう人も多い中で、自分で発散して解消できる一希は大人だ。そんな一希に外へ連れ出してもらった羽菜は、そこで見た、雨に濡れてキラキラと輝く苔に胸が踊る。その感性を理解できない一希と「わっかんないかなあ」「わかんね~」と笑い合う表情もまた、苔に負けないくらいキラキラと輝いていた。 その後、足を挫いてしまった羽菜をおぶって救護室に連れて帰った牧野は彼女の足に自傷行為の跡を見つける。必死で傷を隠そうとする羽菜の手をよけ、何も言わずに包帯を巻く牧野。彼がやったのは、まさに“手当て”だ。誰にも見られたくない傷を、知られたくない心の内を、牧野は無理やり表に晒そうとしない。本人が知られたくないのであれば、包帯のようにくるんで見えないようにしてくれる。その無骨だけど、あたたかい優しさが児童たちの心を救ってきた。羽菜もその優しさに触れ、自身の破壊衝動を打ち明けた上で「私は……“私”が怖い」と明かす。 だけど、牧野は自分の仕事はあくまでも児童の病気や怪我を診ることで、心の問題と向き合うのは担任である篠谷の仕事だと一線を引こうとしていた。もしかしたら、牧野は小児科医だった頃の出来事から他人の心に触れることを恐れているのかもしれない。一方で、篠谷は児童が牧野に心を開いている姿を見て、悔しさを覚えながらも覚悟を決めて羽菜を彼に託そうとする。話が平行線を辿る中、2人に気づきを与えてくれたのは「そっちは俺たちの何を知ってんの」という一希の言葉だった。それをきっかけに牧野は自分のスタンスを曲げ、羽菜のもとに走る。大人はどうしても大人だけで問題を解決しようとしがちだ。だけど、そのせいで当事者である子どもの気持ちを置き去りにしてしまい、迷っている間に最悪の事態に陥ってしまうことがある。羽菜も誰かを傷つけたくないという気持ちから破壊衝動が再び自分に向かい、その最悪の一歩手前にいた。 そんな羽菜に向き合おうとする牧野。2人が挟む家のドアは、家を出て行った母・茜(島袋寛子)のように、どうせみんな最後は自分を嫌になって突き放すのだと羽菜が閉じてしまった心の扉を表していた。その扉を牧野はノックし、「お前がどんな人間で、何があって、何考えてんのか。聞かせてくれないか? お前の言葉で」と語りかける。牧野の心からの救いたいという気持ちは羽菜の心の扉を開くことはできるのだろうか。
苫とり子