『虎に翼』の寅子と多岐川にある、「逃げた」過去以外の「大きな共通点」
6月11日(火)第52回:多岐川のスタンスは家庭裁判所の本質か
家庭裁判所設立準備室への異動を命じられた寅子。そこで出会ったのは、昼間から酒を煽り、法に殉じて餓死した花岡のことを「バカたれ」と言って憚らない室長の多岐川だった。 花岡を侮辱するような発言に怒った寅子が撤回を迫るが、多岐川は「君も正しい。俺も正しい。それでいいだろ」「ケンカほど時間の無駄はない。分かり合えないことはあきらめる」と言って取り合わない。 「子供や家庭の問題って、有罪無罪って白黒つかないことばかりでしょ」という寅子のセリフによって、多岐川のスタンスはそのまま家庭裁判所のスタンスを暗に示していることに気づかされる。 「この人、説得する気ないでしょ」と寅子に呆れられる多岐川だが、どちらにも理や義がある問題に対しては、白黒つけてどちらかを説得するのではなく、融和や調整、あるいは別々に歩む道を見つけて最善策を探っていくのが、家庭裁判所の役割であることが予告されているのではないか。 他人が白黒つけるべきではない轟のセクシュアリティと、白黒つけられない矛盾に耐えられなかった花岡の死が、ともに月曜に語られたのは、「白黒つかない/つけなくていいこともある」という意味で、今週の家庭裁判所編のテーマの布石になっていたのである。 さらにそれを、少年審判所と家事審判所というまったくの別物を合併させなければいけない話に繋げていくとは、流れるように構成されたうまい脚本だ。少年審判所の壇所長(ドンペイ)と、家事審判所の浦野所長(野添義弘)で、名前を合わせると「壇ノ浦」になり、源平合戦になぞらえているのも面白い。 花江の味付けに「もうちょっとお砂糖を」と口を出さなくなった猪爪はる(石田ゆり子)が描かれるのも、2つの家庭の味を尊重しあい、新たな「猪爪家の味」へと融和したことを象徴しているのかもしれない。
6月12日(水)第53回:多岐川の姿勢は「混ぜる」がキーワード
性急すぎる少年審判所と家事審判所の合併に疑問を呈する寅子は、“ライアン”こと久藤頼安(沢村一樹)から「子供たちと家庭の問題は地続き」と捉え、「子供の問題はまずは家庭の側面から。逆もまたしかり」「事件だけじゃなく、少年や相談者の生活にも目を向ける」とするアメリカのファミリーコートの理念を聞く。 この場面で、ロシアンティーのジャムをすくって食べる寅子に、久藤が「それは混ぜて飲むものなんだ」と語りかけるやりとりは、アドリブのようにも見えるが、何やら示唆的だ。子供の問題と家庭の問題、事件と生活を地続きと捉えて「混ぜる」ことが家庭裁判所の役割であるというわけだ。 久藤が語る「彼ほど少年問題に熱心な人はいない」という人物像や、弟の猪爪直明(三山凌輝)から聞いた「BBS運動(アメリカで生まれた非行少年の保護と更生を目的とした学生のボランティア活動)を日本に初めて取り入れた人」という功績と、実際に接する多岐川の仕事ぶりとの落差に戸惑う寅子。 だが、多岐川が昼間から酒を煽り、夜は飲みニケーションで壇と浦野を引き合わせるのは、酒には意識と無意識、本音と建前、仕事とプライベートを「混ぜる」作用があるからではないか、とも思える。夜は酒の力で腹を割って、お互いの人間性に目を向け信頼を構築することで、昼間は臆することなく議論でぶつかれるように、という多岐川の計らいなのかもしれない。