秘密をガッチリ守ろうとするよりも効果的…情報を隠すために"ニセの論点"を作る官僚の巧妙な手口
■ロシア側から文句「情報管理しっかりしろ」 【佐藤】結果誤報とは何かというと、取られた文書の名前と順番を組み替えて誤報にすること。本当は決裁済みの正式な文書を取られているんだけれど、「その文書は途中段階の中間文書でした、正式な文書ではありません、あしからず」とシレッとやってしまう。これは国内ならわりと簡単にできる。 【西村】相手のある外交文書でそんなことが簡単にできるとは思えないね。 【佐藤】たしかに簡単ではなかった。何せ外交文書だったからかなり面倒だった。相手のあることなので、いったんフィックスした文書は簡単には結果誤報にはできない。当時はロシアとの信頼関係が絶大だったからできたんだよね。すぐにロシア外務省と話をすり合わせて、「メモランダム」というタイトルを「なんとか声明」みたいに変えて、順番も組み替えちゃった。でもさすがにロシア側から文句を言われたよ。「情報管理しっかりしろ」って。 【西村】情報を取った記者のほうはどうなった? その記事、もう掲載済みだったんだよね? 【佐藤】最終合意文書として新聞に掲載したあとで、中間文書を掴まされたことになったんだから、それは大恥をかかされたと思うよ。その記者は、かわいそうにしばらく経って異動になったって。 【西村】結果誤報のからくりは知らないまま? 【佐藤】それが、外務省内の情報漏洩疑惑の当人であるロシア課長が、結果誤報のからくりもその記者に話しちゃったんだよ。「あれは佐藤が結果誤報にしてきたんだ」って。つまり自分が最終文書だと言って流したものだから、その記者に対して弁明しなくちゃならなくなったんだろうね。佐藤にやられた、佐藤のせいだ、佐藤が悪い、という言い方をしたようだ。だからその記者にはそのあとえらく恨まれた。 【西村】そりゃあ、そうなるよね。 ---------- 佐藤 優(さとう・まさる) 作家・元外務省主任分析官 1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。 ---------- ---------- 西村 陽一(にしむら・よういち) 元朝日新聞編集局長・ジャーナリスト 1958年東京都生まれ。東京大学卒、81年朝日新聞社入社、静岡支局で新聞協会賞(団体)受賞。政治部員、モスクワとワシントンの特派員、アメリカ総局長、清華大学高級訪問学者など米中ロで計13年勤務。政治部長、編集局長を経て、役員として編集、デジタル、マーケティングを統括、ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン代表取締役。2021年退社後、東京大学大学院客員教授として情報社会論を講義、ほかに国内外の大学などで講義講演多数。著書に『プロメテウスの墓場』、共著に『無実は無罪に』『「イラク戦争」検証と展望』など。 ----------
作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、元朝日新聞編集局長・ジャーナリスト 西村 陽一