【米大統領選テレビ討論のウラ】「もしトラ」と「もしバイ」でウクライナ戦争は大違い!
「現実」を知る必要
「もしバイデン大統領が勝利すれば」(「もしバイ」)となれば、バイデン大統領はウクライナに戦争をつづけさせるだろう。しかし、そこにはウクライナ勝利の見込みはほとんどない。張り巡らされた塹壕と要衝に築かれた要塞を突破して領土を回復するのは、至難の業であるためだ。もしある程度まで領土を回復できたとしても、クリミア半島奪還の恐れが出てくれば、ロシアによる戦術核兵器の使用というシナリオもありうる。 他方で、ウクライナには、兵士が不足している「現実」がある。ケロッグとフライツの論文は、「この戦争でロシア軍は約20万人が死亡し、24万人が負傷した。ウクライナ軍は約10万人が死亡し、最大12万人が負傷した」と書いている。そのうえで、「現在のウクライナの人口は3670万人と推定され、2022年2月の人口4500万人から大幅に減少している」という。しかも、多くのウクライナ人が紛争から逃れているから、ゼレンスキー政権側のウクライナの総人口は「2000万人にも満たないかもしれない」。 4月2日、ゼレンスキー大統領は兵員不足に対処するため、男子の最低徴兵年齢を27歳から25歳に引き下げる法律に署名した。彼はまた、徴兵免除の一部を廃止し、新兵のオンライン登録を創設する新しい法律にも署名した。新法は、徴兵年齢にあるすべての男性に、住所を含めて政府に登録することを義務づけ、そのなかから徴兵者が選ばれる。7月16日までに登録しなかった場合は刑事罰の対象となる。 だが、「現実」をみると、「ウクライナが徴兵制を拡大するなか、身を隠す男たちがいる」と、6月21日付の「ニューヨーク・タイムズ」は伝えている。
マスメディアは「現実」を報道せよ!
民主主義を標榜する国でありながら、アメリカやヨーロッパ、さらに日本の国民の大多数は、ここで紹介したような「現実」を知らないのではないか。その結果、「もしバイ」になれば、何の見通しもないまま、ウクライナ戦争はつづけられるだろう。勝利の道筋が示されることもないまま、湯水のように資金が無駄遣いされ、人命だけが確実に失われてゆくことになる。 それにもかかわらず、主要なマスメディアはウクライナ戦争の「現実」を無視し、バイデン政権にとって好都合の情報しか基本的に流さない。彼らはバイデン支持だからである。つまり、情報統制のもとで、多くの人々は騙された状態に置かれている。これでも民主主義なのかと思わせるほど、マニピュレーション(情報操作)が仕組まれていると指摘せざるをえない状況にあるのだ。 他方で、「現実」を知る者にとっては、ウクライナ戦争を継続する大義を見出すのは難しい。戦争をつづけても、消耗戦になるだけだとすれば、停戦し、和平の維持をめざすのが筋だろう。犬死を減らし、将来ある人々を守るためには、迅速な和平実現しかない。 だからこそ、「もしトラ」によって、停戦・和平の実現が近づくのであれば、「もしトラ」が「もしバイ」よりも、ずっと望ましく思えてくる。
塩原 俊彦(元高知大学大学院准教授)