【米大統領選テレビ討論のウラ】「もしトラ」と「もしバイ」でウクライナ戦争は大違い!
どうウクライナとロシアを向き合わせるか
「もしトラ」となったら、まず、米政府はウクライナとロシアの両政府に公式に接触する。戦争当事国である2国を交渉のテーブルにつけるためである。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領に対しては、「交渉のテーブルにつかなければならない、そうしなければ米国の支援は打ち切られる」と言う。一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領には、「交渉のテーブルにつかないなら、ウクライナ人が戦場であなたを殺すのに必要なものはすべて与える」と言う――これが基本姿勢だ。 ウクライナが対話と停戦に応じれば、「追加の安全保障」も約束される。フライツによれば、提示された和平案の重要な要素は、「ウクライナを徹底的に武装させる」ことだという。 他方で、ロシアに対しては、ウクライナをNATOに加盟させる計画を「長期間」放棄することを約束する。これは、プーチンを和平交渉に参加させるための最低限の条件となるだろう。「もしトラ」でトランプ大統領になれば、他のNATO首脳も、安全保障を伴う包括的かつ検証可能な和平協定と引き換えに、ウクライナのNATO加盟を長期間見送ることを提案すべきだと、二人は指摘している。
停戦・和平を考える前提
ここで紹介した「計画」についてコメントを求められたロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、「プーチン大統領は、これまでも、そしてこれからも、現地の現実の状況を考慮して、交渉のためにオープンであると繰り返し言ってきた。我々は交渉に前向きでありつづける」とのべた。 これに対して、ゼレンスキー大統領は、相変わらず、2022年11月15日、G20の席上で示した、ウクライナの領土の完全性の回復、ロシア軍の撤退、敵対行為によって生じた損害の補償などを条件とする10の提案に固執しつづけている。その延長線上で実施したのが笑止千万な「平和サミット」であった(拙稿「ウクライナ「平和サミット」が茶番劇である理由」を参照)。 ここで紹介した、トランプに提示された計画が実現するかどうかは、本当は、ウクライナ戦争に対する理解にかかっている。拙著『ウクライナ3.0:米国・NATOの代理戦争の裏側』(社会評論社刊)に示したように、ウクライナ戦争は決してウクライナとロシアだけの戦争ではないという理解が重要である。先に紹介したケロッグとフライツの論文でも、つぎのような記述がある。 「要するに、バイデン政権は2022年後半から、国内でのプーチン政権の弱体化と軍事的破壊という米国の政策目標を推進するために、ウクライナ軍を代理戦争に利用し始めたのだ。それは戦略ではなく、感情に基づいた希望だった。成功のための計画ではなかった」 この主張を裏づけているのが、2022年4月から5月に、バイデン政権がウクライナ政府に対し、ロシアとの和平合意を思いとどまるように仕向けたという説だ。前述した論文には、「停戦と和平交渉に一貫して反対していることから、バイデン当局者が当時、ウクライナ政府がロシア側と和平協定を結ぶことを思いとどまらせた可能性はあると考える」と書かれている。 ウクライナ戦争を代理戦争とみなすと、ウクライナ戦争を終結させるには、ウクライナ政府だけでなく、ウクライナ軍を代理に仕立てているアメリカ政府自体の明確な方針転換が必要になる。だからこそ、「もしトラ」によって、ジョー・バイデンを倒さなければ、ウクライナ和平は決して実現しない。なぜなら、「バイデンとそのチームは、ウクライナの全領土からのロシアの完全撤退を含まない停戦や和平合意には一貫して反対してきた」からである(アメリカの「悪」については、拙稿「【ウクライナ戦争丸2年】もうホンネの話をしようよ~アメリカの「10の諸悪」」や拙著『帝国主義アメリカの野望』を参照)。