卓球・最強中国に勝つための“新機軸”。世界が注目する新星・張本美和が見せた「確率の高いパターンの選択」
追い込まれた中国代表vs世界が注目する新星、という図式
2ゲーム目は、先ほどのツッツキに見せかけたフォームから、ストップで上手に短く止めて、張本の得点で開始。順切りサーブ。巻き込みサーブ。このあたりから、張本は自分の技を出し惜しみせずに使っていく。 しかし、このゲームは王芸迪に運が味方する場面もあった。2-4と王芸迪リードの場面から、ネットイン。1点が欲しい場面。ラッキーな形で王が突き放した。勢いがついた王は、6-9からバックミートの打ち合いを制する。もう1本バックミートの打ち合いが続いて6-11で王が取り切った。 3ゲ―ム目。フォアで打つ率を増やそうとしたか、左右のフットワークの早さを増す張本。しかしやはり、王のドライブの角度も良く、サイドを切ってくる。2-3からはかなり激しいラリーに会場が湧いた。張本がこれを打ち勝って3―3。 8-5からは何度もフォアとバックを切り返して、強烈な打ち合い。張本が凌ぎ切って9-8となったところで、張本がタイムアウト。ベンチではコーチ役の父親から熱心なアドバイスも飛んでいた。 どんな指示と作戦があったか。注目の1球。 選んだのはロングサーブの順切り横回転と、そこからのバックミートの3球目だった。これが完璧な形で決まって、そのままこのゲームを取り切った。自信を持って、真っ向勝負で「王道のことをやり切った」表情の張本がそこにいた。
「捻じ伏せた」を印象づけた、“たたきつけロングサーブ”
王芸迪といえば、世界ランキング3位に君臨する選手。正真正銘、卓球大国中国が誇るトッププレーヤーだ。 しかし近年、国際試合での弱さを指摘され始めてもいた。2023年には「対日本人選手」で4度敗れ、今年2月には平野美宇に0対3のストレート負けを喫している。パリ五輪では2つ枠のある団体戦代表シングルスの座を外されたとの報道もあり、3番目の座をかけて目の前の試合をこなしている状況。5月半ばに正式決定するといわれている中国のレギュラーメンバーに残れるか、否か。そんな瀬戸際の精神状態が、ここから露になってくる。 4ゲーム目。左右の打ち分けで張本が1-0で開始。この時も、王の表情がゆがんだ。バックミートの打ち合いが多くなるこの2人の攻防。しかしこのゲームでは、張本がフォア側へ王を振るような余裕も見られた。4-1。たまらず、中国がタイムアウト。ベンチではかなり激しいゲキが飛ぶ。 お互いに、バックミートの打ち合いを「我慢できるかどうか」の勝負。そこが一つのポイントとなった試合。王も必死に食らいつき、5-4。 8-6。フォア側から出す巻き込みサーブに切り替えた、張本。そしてここで、高速ラリーに入る前に、フワッとユルいボールを繰り出し、緩急をつけてから左右に振った。このラリーでは王をノータッチで抜くことになる。完全に翻弄した手応えもあったか、ガッツポーズも飛び出した。11-6。4ゲーム目も張本が取る。 5ゲーム目。ここから強気になった張本が、一気にたたみかける。回り込みチキータ。もはや「お手のもの」のバックミートの打ち合い。8-9からは、順切りロングサーブから両ハンドで猛攻撃を仕掛ける。 選手の精神状態を断定することは決してできない。しかし、それでもこの仕掛け方には「強気」という表現がよく似合う。台にたたきつけるかのような、高速ロングサーブだ。それはまるで、取れるものなら取ってみろと言わんばかりの迫力。それが、代表枠争いにおいて大変な状況にある王には“効いた”ように思える。 9-9に追いつくと、今度はここでフォア側に回り込んでのバックドライブを披露。チキータよりさらに腕を振っており、突然飛び出した独創的なプレーに王がノータッチで抜かれた。10-10。ジュースにもつれ込んでからも、臆することなく、ロングサーブを選択。思い切り勢いをつけようとしたのだろう。これがサーブミスとなる。 10-11。追い込まれた場面で何ができるか。張本はフォア強打一発抜きを選択。これが綺麗に決まる。ここでもまた、強気さを感じさせる。しかしこのタイミングで、12-11から王のボールがエッジインする場面があった。不運としか言いようがない場面。完全に、運は中国に味方していた。