原爆の記憶を「忘れろ」と迫ったGHQ 表現規制の実態も詳しく書き残す 記憶遺産目指す大田洋子『屍の街』(下)
大田は自らが受けた尋問の一部始終を「山上」に記した。「記憶の消去」まで要求されたことも書き込んだ。 大田は自我が強く、わがままで、強すぎる作家意識が文壇で嫌われていた。戦後の原爆被害者としての作品と、戦時中の戦争協力という二面性への批判もあった。それらが作品評価にも影を落としてきたが、違う見方もできる。 「わがまま」というのは、自己主張が強く、自由の制約や抑圧を嫌うということだ。その性格が強く発揮されたらからこそ、規制の中でも『屍の街』を出版することができたのではないか。「強すぎる作家意識」は使命感の強さでもある。それは誰よりも早く、大量に原爆文学を書くエネルギーをもたらした。 二面性の批判については、大田の戦時中の作品や振る舞いがもっと丁寧に分析される必要があると思う。 権力者に忖度(そんたく)して自主規制が広がり、言いたいことが言えない空気がまん延している今こそ、大田の抵抗精神に学びたい。原爆文学の先駆者としての文業も、もっと評価されていい。
世界各地で緊張が高まり、核兵器使用の恐れも現実味を増している。核兵器がどれほど非道な大量虐殺兵器であるか。大田を含めた原爆文学の「世界の記憶遺産」への登録を強く願わずにはいられない。(終わり) 「数奇な運命」たどった作品 大田洋子『屍の街』(上) https://www.47news.jp/9900047.html 丸ごと1章削除の真相 大田洋子『屍の街』 (中) https://www.47news.jp/9903350.html