【MotoGP現場ぶら歩き】山に囲まれたムジェロ・サーキットに感じたコントラストと、コース“外”で上がるエキゾーストノート
といっても、このストレートは最終コーナーの立ち上がりから1コーナーまでずっと「まっすぐ」というわけではないのです。ゆるやかに右、その後、左にカーブしています。また、フラットではなくて、とくにピットレーン出口付近が少し上り坂になっていました。 実際に歩いてみると、映像で見るのとは印象が異なるのだなと感じた部分です。それにしても、1km以上の“ストレート”は歩いてみるととても長い……、ともつくづく感じました。 調べてみると、ムジェロ・サーキットはとても歴史の長いサーキットだそうです。その始まりは1914年にまでさかのぼります。1988年にフェラーリに買収され、フェラーリのテストコースになっています。 コースサイドを歩いていると、斜面になった草の上に座り込んだり、テントを立てたりして走りを見守る観客の姿が見えました。そして、セッションがない時間でも、どこからともなくエキゾーストノートが聞こえてきます。どうやら、観客が自分のバイクを走らせたり、エンジンをふかしたりしているようなのです。 そういえば、MotoGPライダーの囲み取材でも、こうした「コースの外の音」についての質問が上がっていたような……。この「音」は、ムジェロ・サーキットの特徴のようです。サーキットに泊まり込むファンも多いのでしょう。 実際のところ、日中に歩いているだけでも、いつまでもいつまでも響くそれに、「まいったなあ」と、苦笑いしてしまったわけですが。
山が見えて、どこかのどかな風景なのに、そんなエキサイティングな音が入り混じっていて、ムジェロ・サーキットは不思議なコントラストを持つ場所のようにも感じられました。 不思議なムジェロの魅力に惹かれながらサーキットのマップを眺めていると、見知った顔のスペイン人ジャーナリストが話しかけてきました。 「僕はこのサーキットがいちばん好きなんだ。あなたは?」 「うーん、ヘレスかな」 スペインの情熱的な歓声を思い出しながらそう答えると、スペイン人の彼は嬉しそうに笑いました。イタリアのサーキットであるムジェロには、まだまだ奥の深い魅力があるのかもしれない……と思った、やりとりです。 歴史の長いサーキットはさらに、一度では全容をつかむことなどできません。だから、また足を運んで、「ムジェロのMotoGP」を取材したくなるのです。
伊藤英里