天野純が抱えた韓国の古巣との因縁…恩人から「優勝してくれ」 “エモーショナルな一戦”に隠された物語【コラム】
PKで白熱…元同僚・韓国代表GKとの駆け引き
その後は必然的に数的優位に立つ蔚山現代が主導権を握り続けた。アジアサッカー連盟(AFC)の公式スタッツによれば、延長戦を含めた120分間で蔚山が放ったシュート数は実に40本に到達。そのうちペナルティーエリア内で放たれたものが26本を、ゴールの枠内に飛んだものが15本をそれぞれ数えた。 「立ち上がりから素晴らしいゲームをして、失点とともにちょっとペースダウンして、退場もあってすごく難しいゲームになったけど、本当にやれることをすべてやり切って、いつ失点してもおかしくなかった展開でポープのファインセーブに救われて、シュートがクロスバーやポストに当たったのにも救われて」 120分間のほとんどをピッチの外から、声をからしながら見守り続けた天野はさらに言葉を紡いだ。 「本当にこれだけのサポーターが来てくれたので雰囲気がすごかったし、一体感があったし、何としても彼らに笑顔で家へ帰ってほしかった。マリノスに関わる、すべての人で勝ち取った勝利だと思います」 決着はPK戦に委ねられた。大島秀夫アシスタントコーチがキッカーを発表する。FWアンデルソン・ロペスから水沼、ゲームキャプテンのDF松原健に続いて指名された天野は、直後にポープに耳打ちした。 「マーティン・アダムがPKを蹴ってくる方向が、だいたいわかっていたので。ポープから見て右に絶対来るよと言ったんですけど、ポープも足がつっていたからそこまでパワーが出なくて」 先蹴りの蔚山現代の1番手で、左利きのハンガリー代表FWマーティン・アダムが得意とするコースを、元チームメイトとして熟知していた。しかし、スピードがある弾道にポープもわずかに及ばなかった。両チームともに全員がPKを成功させる、緊張と興奮が交錯する展開のまま天野に順番が巡ってきた。 「僕自身は足の状態もフレッシュだったし、前日のPK練習でしっかり決めていたので自信もあった」 ゴール裏のスタンドから「アマジュン、アマジュン」コールが沸き上がるなかで、ハーフウェイラインからゴールに近づいていった天野の脳裏に蘇った蔚山現代時代の日々が、ネガティブな感情を生み出していた。 「ヒョヌがPKをストップする能力の高さも知っているし、実際に蔚山現代のときのPK練習でもけっこう止められていた。実際に当たってみるとちょっと嫌だったというか、びびってしまったというか、本当にペナルティーマークからゴールまでの距離がマジで遠く感じられて『これ、やばいな』と思って」