天野純が抱えた韓国の古巣との因縁…恩人から「優勝してくれ」 “エモーショナルな一戦”に隠された物語【コラム】
韓国時代の“恩人”とかわした会話「優勝してくれ」
先のアジアカップでもPK戦で2発を阻止しているヒョヌが12ヤード(約10.97m)先で、主審から注意されるほど盛んに動いて天野にプレッシャーをかけてくる。それでも、サポーターと喜びを共有したい思いがすべてを上回った。ヒョヌの逆を突いた強烈な一撃を、ゴール右に突き刺した天野は冒頭で記したように吠えた。 そして、天野の檄を受けたポープが蔚山現代の5人目で、J1のサガン鳥栖でも活躍したMFキム・ミヌの一撃を左へ飛んで完璧にセーブする。マリノスの5人目、DFエドゥアルドがゴール左へPKを決めて死闘に決着をつけた。今回から秋春制で行われているACLへ、天野は万感の思いを募らせていた。 「昨シーズンからプレーしている選手たちがここまで繋いでくれたと思うし、逆に僕は昨シーズンここにいなかった。そういった移籍して去った選手たちの思い、というのをしっかりと受け継ぎながら、責任を持ってやらなきゃいけないと思うし、何て言うんですかね……本当にエモーショナルな試合でした」 試合後には「蔚山現代で活躍できたのは本当に彼のおかげ」と、いまもリスペクトの念を抱いている35歳のベテラン、韓国代表のMFイ・チョンヨンから「優勝してくれ」とエールを送られた。 「アウェーの試合後にも話しているし、彼とは本当にいい友好関係を築けている。一筋縄じゃいかないのがこの大会だとあらためて実感したし、今日のように前後半で真逆のチームになってしまったのも、この大会がそうさせている部分もある。決勝はさらに難しくなるので気をつけなきゃいけないし、ホームでのファーストレグでどれだけ相手に恐怖心を与えられるか、というのが本当に大事だと思うので、チーム一丸になって頑張りたい」 思いの丈を打ち明けた天野は、再びクールな一面を取り戻していた。その視線はゴールデンウィーク明けの5月11日に、ホームの横浜国際総合競技場に西地区を制したUAE(アラブ首長国連邦)のアル・アインを迎える決勝ファーストレグを見すえている。 [著者プロフィール] 藤江直人(ふじえ・なおと)/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。
(藤江直人 / Fujie Naoto)