Netflix話題作に関わるプロデューサー、髙橋信一の思考。『地面師たち』『ONE PIECE』製作の裏側
撮休日を少なくとも週1回。Netflixの撮影スケジュールや製作環境
―『地面師たち』で大根監督にインタビューをした際、人道的な撮影スケジュールとお話されていましたが、通常製作時間はおおよそどれくらいなのでしょうか? 髙橋:作品ごとに適正な撮影期間を求めるようにしているので、当然一概には言えないのですが……直感的に申し上げると4か月~6か月ぐらいがドラマシリーズにおいては多いかもしれません。 僕が入社する前から、Netflixは1日の撮影時間の上限を12時間に決めたり、撮影をしない日を必ず週1回いれたりしていて。そのためほかの現場と比べて撮影期間はどうしても伸びてしまいますが、それは業界全体を底上げしていくために必要なコストだと思っています。 ―Netflixが日本ではじめて『彼女』で導入したインティマシーコーディネーターがいまやあらゆる作品に参加したり、業界全体にポジティブな影響を与えていると感じていたのですが、やはり意識していたんですね。 髙橋:日本の映像業界に良くなってほしいと考えているのは業界のみなさんも同じなんですよね。ただ、そのなかでNetflixはグローバルカンパニーならではの視点で「日本の製作現場のために、こんなことができるんじゃないか」という提案ができている部分があるのではないでしょうか。 インティマシーコーディネーターや、17歳以下の未成年の撮影参加者(演者)へのケアをはじめ、現場ごとにどのようなサポートが適しているのかは日頃から考えていることですし、後学のため一緒に仕事をしたクリエイターに話を聞くこともつねにしています。俳優やスタッフの方が働きやすい環境を可能な限り提供することは、良い作品づくりのために必要なことですから。
実写版『ONE PIECE』への思い 「原作のDNAを伝えていった」
ー実写版『ONE PIECE』について、髙橋さんはこれまでメディアの取材などを受けていないと思いますが、どのような流れで携わることになったのでしょうか? 髙橋:日本の作品が海外で映像化される際には、仲介の方が映像化権のライツを預かる、もしくは購入して、海外の製作会社などに売り込んで成立するという流れが一般的です。ビジネス上の利点もありますが、ただそのなかで、クリエイターや原作サイドの意図や要望がこぼれ落ちることが多いんです。すなわち、作品のDNAが失われる、ということが起きかねない。 今回は原作サイドである尾田さん・集英社さんとNetflix・Tomorrow Studiosの両者のクリエイティブがかけ違わないように、USチームから「日本の窓口として誰か参加してもらえないか」とラブコールをもらい、僕が手を挙げたのがきっかけです。私だけでなく韓国チームのプロデューサーも参加をしています。 連載開始からリアルタイムで読み始めて、いまだに週刊連載で読んでいる漫画なので、その映像化に携われるなんて本当に嬉しいですよね。 ―髙橋さんはどのようなかたちで製作に参加されているんでしょうか? 髙橋:本作においての僕の最大の役割は、作者である尾田栄一郎さんの意図や、原作のDNA、重要なポイントを明確にNetflixのUS Teamや制作スタジオに伝えていくこと。逆に制作チームの目標や実写化に対する思い、原作を翻案する際にはその意図やメリットなども丁寧に日本側に伝えることもしていきました。 ハリウッドと日本の漫画作品ではストーリーテリングの趣が異なるので、それを片側に合わせすぎると大事なDNAが失われてしまうと考えているんです。なので、それぞれのストーリーテリングの魅力やメリットを双方に説明してうまくすり合わせていく、ということを時間をかけて慎重にやっていきました。 ―潤滑油兼、接着剤のような役割! なかなか難しい漫画実写化で、しっかりファンの期待に応えることができたのは丁寧なやりとりがあったからなんですね。 髙橋:根源的にはみんな『ONE PIECE』が好きだから実写化しようと考えているので、そこに立ち返ったことが良かったのだと思います。これを機に日本のIP作品が海外へと展開されていく機会が増えてくれればと思いますし、それがNetflixで多く実現してくれると嬉しいですよね。 ―じつを言えば、私も観るまで大丈夫かなと感じていました。 髙橋:世界中で愛されている作品だからこそ、実写化において皆さんが不安を感じていたのは間違いないですよね。だから我々や尾田さんは、その不安をどう払拭できるのかをつねに考えていました。