「初めて習う稲作農業を他の生徒たちは知り尽くしている…」少数精鋭のエリート中学受験塾で直面する“小4の格差”
低学年から様々なことを詰めこんでくる生徒たち
A子さんが息子の話を聞くと、こんなことがあったようだ。 ある日、社会の授業では、稲作の話題が取りあげられていた。 「お米がたくさんとれる都道府県では」と話しながら講師がホワイトボードに「北海道」と書いた瞬間、生徒たちが手を挙げて発言をしていく。 「石狩平野と上川盆地が有名です」 「上川盆地は内陸性の気候で冬はすごく寒くなって夏は暑いです。こういう気候だとお米は作りやすいです」 「北海道の有名なお米はななつぼし! 昨日、お母さんとスーパーに行ったら売ってました!」 みなマシンガンのように知識を発言していく。 “初めて習うことなのになんでみんなこんなにいろいろ知っているんだ”──息子はそう思い、授業中に下を向いたそうだ。その塾は予習をしてくるスタイルの塾ではないのに、なぜ、こんなにみんな知識があるのだろう。 「保護者会で知り合ったママたちとお茶に行ったんですが、みんな小学1年からSAPIXや四谷大塚に通っていたり、算数塾と理科実験教室をかけ持ちしていたりしてました。“少数精鋭の難関校対策の塾”ですからね。そこに入ってくる生徒は入塾前に様々なことを詰めこんでいるんです。息子にとっては初めて勉強することでも、ほかの子たちにとっては復習なんです」
ジバンシーのバッグを肩から下げるセレブママもいる保護者会
息子は小学1年の頃、海外から戻ってきた直後だったので、日本人の同世代の子たちと日本語で会話をすることに慣れるのに精一杯だった。 「SAPIXや四谷大塚のような大手塾ならクラス数も多く、クラス分けも細かいから、息子も自分の力に合ったクラスに入れたと思うんです。でも、今の塾の校舎は2クラス編成なので上のクラスに入ってしまうと、筑駒をガチで狙っていて低学年から塾通いをしていた子たちに囲まれて授業を受けることになります。中には灘を受けたいっていう子もおり、合格したらママと2人で兵庫に引っ越すそうです。そういう環境を経験するのは息子のためになると思ったんですが」 保護者会もちょっと雰囲気が独特だそうだ。 「ハイブランドのジバンシーのロゴが大きく書かれたトートバッグを肩にかけているママがいらして、ふと『あのトートバッグはいくらするの?』と思って調べたら16万円でした。たぶん経営者と結婚した系の女性なんでしょうね。お金を得たら次は学歴ってことなんだろうなあと。彼女は例外で、大半は地味で上品な専業主婦風の方か、私みたいに仕事着のジャケットを羽織って来ちゃう系か。あと、パパの姿も多かったですね。ノートパソコンを開いて熱心にメモをとってらして。うちの夫は中学受験にまったく協力的ではないのでちょっと驚きました」 今回は、「なにがなんでも難関校」「開成に入れたい」という方針の中学受験生ママのA子さんの息子が「難関校特化型エリート塾」に通って苦戦をしていることに言及した。そこの集まるガチ受験組は低学年、いや、幼稚園から塾に通っていているから、知識量が圧倒的に違う。初めて塾に入った息子は、そこで“小学4年の格差”に直面したのだ。萎縮して、塾をサボって、友だちの家に遊びにいったA子さんの息子はどうなるのだろうか。次回記事ではその後の選択について報告しよう。 (第4回につづく) 【プロフィール】 杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも更新中。