なぜ大阪女子マラでV、東京五輪代表最有力の松田瑞生は「厚底シューズ」に逆行する「薄底シューズ」で勝てたのか?
「底の厚さは、それぞれの好みがあるでしょう。選手によって違う。彼女の場合、外反母趾なので既製品(厚底シューズ)は無理なんです。直前に、本人から”きつい”といわれて、2.5ミリ修正したんですが、実はこのとき、よっぽど調子がいいんだろうと思いました。きつく感じるのは、背が伸びたか、体重が増えたか、調子が良くて踏む力が強くなっているかのいずれかですから」 わずか2.5ミリ大きくしたシューズ。 さらにレース前には、三村氏が、シューズの効力を増すために松田の足首にテーピングを巻いたが、「真っすぐに地面を蹴られるように、初めて2枚巻いた」という。 それを裏づけるように山中監督は、「彼女は疲労がたまると足がむくみやすいけれど、今回は血管が浮き上がっていた」と手応えを口にした。 山下佐知子五輪強化コーチも「迷いなく薄底シューズを選んだのが良かった」と評価した。ナイキ製の厚底シューズを履く場合、走り自体も変えなければならないが、元々、トラック出身でスピードがあり、腹筋が強く、ぶれの少ない安定した走法の松田には、伝説のシューズ職人が作ってくれた足にフィットする「薄底シューズ」が、最大限のパフォーマンスを引き出してくれたのである。 松田が4度目のマラソンで基準タイムを突破して優勝を果たした。これ以上ないシナリオに瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは、「第一人者と思っていた松田が戻って来たのはうれしい限り。世界的なタイムを持つ外国勢に勝ったのだから、よほどの力がある。さらに後半を頑張れば、1分から1分半は伸びる可能性を感じた。日本記録(2時間19分12秒)を出すぐらいの力があるんじゃないか」と絶賛した。 そして、「札幌のコース(東京五輪)は後半30キロが平たんでスピードレースになるのでトラックで通用する選手(松田)が出てきたのはいい方向。名古屋の基準は2時間21分47秒。これを超えるのは至難だし、破ったとしたら陸上界の未来は明るい」と続けた。 最終選考会となる3月8日の名古屋ウィメンズマラソンには、松田と同じくMGCからのリベンジ組がエントリーしてくる。MGCでは積極的に攻めたが6位に終わったトラック出身の一山麻緒(22、ワコール)、2時間21分36秒の自己ベストを持ちながら8位だった安藤友香(25、ワコール)、右足の故障で欠場した関根花観(23、日本郵政グループ)、途中棄権した上原美幸(24、第一生命グループ)。そこに、名古屋で再挑戦するため、あえて、この日のレースを25キロで棄権したベテランの福士が加わる。 第3の座に最も近いオンナとなった松田は「このタイムは(名古屋では)抜けない」と、地元大阪でのレースを誇りに吉報を待つことになる。 (文責・山本智行/スポーツライター)