人里離れた絶壁にあえて出店 130席の“ぽつんと”レストランなぜ人気? 驚きの「バッドロケーション戦略」に迫る
単なる店ではなく「街」をつくる取り組み
バルニバービでは、2019年4月にガーブ コスタオレンジがオープンするまで、誰一人歩いていなかった場所を、フロッグス・ファームとして、10億円超を売り上げ、50万人を集客するまでに発展させた(いずれも年間の実績)。 そういった佐藤氏の話を受けて、齊藤町長は「地方創生には、その土地の価値を再発見する、よそ者の視点が必要ではないか」とコメント。菊池氏も同意していた。齊藤町長は北海道紋別市の出身で、以前は天塩町の副町長を務めていた、いわば「よそ者」。余市町を日本屈指のワインの町にするべく、産業振興に取り組んでいる。 佐藤氏は「観光で終わらず、そこで働きたくなる。最終的に住みたくなる街をつくる。そこまで行きたい」とも話す。齊藤町長も同じ意見だった。 「街」というワードがあった通り、バルニバービはエリア全体の開発に挑戦している。ガーブ コスタオレンジは海沿いの夕陽がきれいな県道31号線、通称「サンセットライン」を生かしたロケーションが売りで、観光向けの施設だが、現在はラーメン店「中華そば いのうえ」に「淡路島 回転すし 悦三郎」、ローカル湯だねパン「しまのねこ」など、地元の人の需要が高い店もつくった。 2022年3月には、旧尾崎小学校をリノベーションした複合施設「SAKIA」をオープン。SAKIAでは地域の祭を復活させる目的で、春と秋の年2回、グラウンドで「サキア祭」を開催している。第1回は屋台を出す人は誰もいなかったのでバルニバービ自ら運営したが、3月の第5回では、48団体が出店するまでにぎやかになった。 ガーブ コスタオレンジの道向かいには、バルニバービとは関係のないカフェやアパレルに雑貨といった店が新しくできており、さまざまな人が参加して街が形成されつつある。
淡路島と出雲から、地方創生モデルを全国へ
バルニバービでは、フロッグス・ファームで実現した地方創生のビジネスモデルを全国各地に横展開することを考えている。淡路島だけでなく、島根県出雲市でもプロジェクトが進んでいる。出雲市は人口約17万人で、島根県では松江市に次ぐ人口規模がある。全国的に著名な出雲大社もあって、観光地として成功しているエリアだ。 そんな中、同社が進出したのは出雲大社から車で1時間ほど西に行った、日本海沿いの多伎地区。夕陽が沈む光景がきれいといった点では、淡路島西海岸と似た面がある。この地に、2023年5月「GARB CLIFF TERRACE Izumo(ガーブ クリフテラス イズモ)」という飲食店がオープンした。島根の食材と薪火料理を売りにしており、訪れた人からは「この店は島根っぽくない」といった評判を聞く。 同店の地下にはホテル「Izumo HOTEL THE CLIFF(イズモ ホテル ザ クリフ)」をオープン。8室の小規模なホテルながら、岸壁の中に建ったような独特な建築で人気になっている。7月に発表があった国内初となる「ミシュランキーホテル」のセレクションで、山陰から唯一1つ選出され「1ミシュランキー」を獲得した。バルニバービによれば「このホテルに泊まる人は、どこにも外出しないで部屋でゆっくり過ごす人が多い」とのことで、ホテルそのものが観光地となっているようだ。 他にも、道向かいにハンバーガーやアイスクリームのショップもオープンするなど、第2のフロッグス・ファームのようになりつつある。淡路島南部の野生動物しかいなかった山林、そして山陰のひっそりとした場所を魅力的な街に変貌させる取り組みの今後に、注目が集まる。 (長浜淳之介)
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