犯罪者・被疑者に「社会福祉」の支援が必要な背景とは?「刑事司法」における“ソーシャルワーク”知られざる理念
社会福祉が刑事司法に「従属」させられる危険性
刑事司法におけるソーシャルワークには、様々な課題が存在する。 そもそも最近になって行われ始めた取り組みであり、制度自体が未発達だ。取り組みに携わることのできるソーシャルワーカーの数は不足しており、「なぜ犯罪者を支援するのか」と批判的な世論もある。 また、刑事司法と社会福祉は「理念」の面で対立する点が多い。 刑事司法には、懲役刑などを通じて犯罪者を社会からしばらく「排除」(エクスクルージョン)するという側面がある。一方で、社会福祉は、被疑者や人々を社会に「包摂」(インクルージョン)することを目的とする。 さらに、刑事司法は「社会のため」に行われるのに対して、ソーシャルワーカーは対象となる「本人のため」に支援を行うことを職業倫理とする。社会復帰や再犯防止を目指す場合にも、究極的な目的とは「社会」ではなく、あくまで「本人の幸福(ウェルビーイング)」だ。 原則として刑事司法は被疑者や罪を犯した人の内心には立ち入らない一方で、本人の同意なく強制的に刑罰を与えることが可能だ。他方で、ソーシャルワークは、本人の同意に基づいていることが不可欠だ。そして、同意が得られた場合には、更生や社会復帰のため本人の内心にまで関与することが必要な場合もある。 「とくに『本人の同意』を無視してしまったら、ソーシャルワークの理念が死んでしまいます。たとえ障害が重く物事を理解することが困難に見えるような人に対しても、ソーシャルワーカーは、あくまで同意を成立させることを重視します」(藤原氏) 刑事司法の手続きにおいて社会福祉による支援が必要な場合がある一方で、ソーシャルワーカーが関与することで刑事司法の理念に社会福祉が従属させられてしまう危険性も常に存在する、と藤原氏は指摘する。 そして、刑事司法の側が、社会福祉の理念から学べる点もあるという。 「現在でも少年司法においては本人の意思が重視されていますが、成人を対象にした刑事司法では無視されており、結果として更生が実現できていない状況があります。 刑事司法においても、社会復帰や更生に関しては、罪を犯した本人の意思を尊重しなければ実現することができません」(藤原氏)
弁護士JP編集部