犯罪者・被疑者に「社会福祉」の支援が必要な背景とは?「刑事司法」における“ソーシャルワーク”知られざる理念
刑務所などで行われる「出口支援」
近年では、刑事司法において福祉を必要とする人のために専門家が支援する「司法ソーシャルワーク」が行われるようになった。 司法におけるソーシャルワーカーの役割は「出口支援」と「入口支援」に大別される。 「出口支援」は、罪を犯した人が懲役などを終えて矯正施設を出所する際に、社会復帰や地域生活への定着を支援する取り組みだ。 具体的には、前述した『累犯障害者』の出版をきっかけに、刑務所にソーシャルワーカーが採用されたり、保護観察所が地域の福祉機関と関係を深めたりする動きが出るようになった。現在では、行政活動として「地域生活定着支援センター」が全国の都道府県に設置されている。
捜査・裁判の段階で行われる「入口支援」
一方の「入口支援」は、捜査や刑事裁判における被疑者や被告人の支援を指す。 入口支援を最初に始めた公的機関は検察庁であり、2013年、東京地方検察庁に社会福祉アドバイザーが採用され、その後は全国の地方検察庁でも社会福祉アドバイザーが配置されるようになった。 具体的には、不起訴処分によって身柄拘束を解かれた後、ホームレスになる可能性のある人に当面の住所を提供する、障害のある人に福祉サービスの利用を進めるなどの支援が行われている。 また、起訴された被告人については、弁護人が入口支援を行う場合がある。 2014年には東京の三弁護士会が社会福祉士会などと協議しながら、支援の必要のある被告人に対して社会福祉士など専門職を紹介する制度を構築した。 同様の制度は全国に少しずつ普及していったが、定着の度合いは都道府県ごとによって異なっていた。2023年の日弁連の臨時総会では全国で入口支援制度の足並みをそろえるための財政支援が決定されたが、現状は、東京や岡山など以前から支援が定着していた地域とそうでない地域とで差が残る状況だという。 また、弁護活動の場では「一般情状」を示すために、更生支援計画の作成やソーシャルワーカーの出廷などが行われる場合もある。 さらに、執行猶予となったが本人の障害や境遇などの問題から再犯の可能性が極めて高い被告人に対して、弁護士が予防的に更生支援につなげる場合もあるという。 「ただし、多くの弁護士は『被弁護人の更生まで支援することは弁護士の仕事ではない』と考えているようです」(藤原氏)