ミュンヘン銃撃 容疑者は無差別乱射に関心? 事件の独社会への影響は
いまや世界トップクラスの「移民大国」ドイツ
多くの場合、テロや大量殺人の背景に存在するのは、なにもイスラム過激思想だけではない。しかし、容疑者がイスラム圏出身であるケースが続いているため、難民受け入れに反対し、移民に対する排斥運動を行うドイツ国内の右派勢力にとって、最近の事件が政治利用しやすい状況を作り出していることも事実だ。22日の乱射事件後、ドイツの右派政党AfD(ドイツのための選択肢)は「ぜひ我々に投票してください」とツイートして批判を浴び、その後ツイートを削除している。 ドイツが移民大国であることはデータでも証明されている。国連が2015年に発表した各国の移民の数に関する調査結果によると、ドイツには現在900万人以上の移民が暮らしており、国民全体の約12%がドイツ国外にルーツを持つとされている。これには難民としてドイツにやってきた人たちも含まれているが、ドイツよりも多い移民を抱える国はアメリカとロシアだけだ。ドイツは他のヨーロッパ諸国よりも移民や難民の受け入れに寛容的な政策を進めてきたが、それに反発するドイツ人も少なくない。 ヨーロッパ各地で繰り返されるテロ事件なども影響して、ドイツでも「イスラモフォビア(イスラム恐怖症)」と呼ばれるイスラム教徒の排除を求める動きが目立つようになった。ドレスデンに本部を置き、ドイツ各地でイスラム教徒の移民受け入れに反対するデモを繰り返す反イスラム団体「ペギーダ」は、昨年11月に発生したパリの事件後にSNSを中心にメルケル政権の移民・難民政策を激し非難。2014年には、ペギーダ主催の反イスラム集会の参加者はわずか数百人であったが、最近では1万人を超える集会も珍しくなくなった。 ペギーダほど差別的な主張は控えているものの、AfDの支持率も上昇している。難民受け入れをめぐる議論が続く中で支持率を伸ばしていたこの政党は、フランスのパリで昨年11月に発生した同時テロ事件の数日後にドイツ国内で行われた世論調査で、支持率が初めて二ケタ台に到達した。残念ながら、AfD支持者はまだまだ増える様子だ。22日の事件は無差別銃撃を「アメリカの話」だと、まるで対岸の火事のように見ていたドイツ人に衝撃を与えた。テロや大量殺人から一般人をどのように守るのか、そして国内で影響力を増大させる反イスラム主義にどのように向き合うのか。メルケル政権は大きな課題に直面している。
------------------------------ ■仲野博文(なかのひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト