<ネタバレあり>音声ガイド制作者が見た「本心」 田中裕子さんの涙に考えた〝心〟というもの
「本心」を最初に見た時、近い未来にバーチャルフィギュア(VF)というものが当たり前になっているかもしれない、というようなリアリティーより、主人公・朔也の動機、亡くなった母の本心を探りたくてVFを作るという発想に興味を引かれました。 【写真】リアルの母とVFの母の二役を演じる田中裕子 若い頃なら、好きな人の本心を探りたいと思ったりしたかもしれないけれど、今は、誰かの本心など知っても意味がないと思ってしまっているからかもしれません。でも、朔也の朴訥(ぼくとつ)で純粋なキャラクターを知り、そこへいくことも納得しました。そして、作品の真ん中にある本心を知りたいという気持ちに、母と仲が良かった三好との同居生活の中から生まれる気持ちが絡んできて……という展開で、アイテムは近未来的であるけれど、普遍的なことが描かれていると感じた作品でした。
〝気持ち〟の部分には口出ししない音声ガイド
さて、私のお仕事は、映画の音声ガイド制作でして、ガイド原稿を書き、スタジオでナレーターさんに読んでもらうといったことをしています。音声ガイドは、映画館の中では、音声認識の技術を活用したアプリとイヤホンがあれば聞けるようになっていて、どなたにでも使っていただけますが、そもそもは、目の見えない、見えにくい方が安心して作品を楽しめるように作成されているものです。 なので、私は目で見たものを説明する係です。登場人物たちの感情や、見ている人がどういうこと?と考えてしまう部分に何か説明をするものと勘違いされがちなのですが、それは基本的にはしません。つまり、見えている人にも見えていない人にとっても、自由に鑑賞する部分に口出しはしません。 今回の「本心」も、作品から伝わる「気持ち」の部分は、視覚(映像)からつかんでいるというより、ストーリーそのものだったり、セリフだったり、役者さんの演技だったり、音楽だったりからつかめるものでしたので、その部分にガイドは入れていません。ただ、作品の目玉とも言えるバーチャルフィギュア、通称VFがいる世界、つまりゴーグルを装着した世界と、装着していない世界があったりするので、その違いが目で分かっている場合は、音声ガイドでも拾わないといけないので、拾い忘れがないか丁寧に確認しました。