参院6増で導入、分かりにくい「特定枠」 坂東太郎のよく分かる時事用語
「非拘束式」に「拘束式」が混ざる?
とはいえ、憲法改正は簡単でないし、2019年選挙が迫る中で現実的でもありません。そこで持ち出したのが「比例4増(改選2)+特定枠」設置です。 この「特定枠」とは比例代表に導入され、政党が事前に定めた順位に従って当選者が決まる仕組み。各党の判断で使っても使わなくてもいいし、何人に適用するかどうかも自由に定められるのです。 これが実に分かりにくい。現行の選挙制度では、参院の比例が「非拘束名簿式」を採っているからです。この制度では、各政党が準備する名簿には、1位はAさん、2位はBさん、3位はCさんというふうには順位はなく、記されているのは候補者名だけです。有権者は投票の際、「候補者名」か「政党名」のどちらかを書いて投票します。名簿に順位がないのにどうやって当選者を決めるのか。まず政党の議席数を決めます。母数は「政党名+政党名簿に載っていた候補者の個人名」となります。「ドント式」という方法で各政党の議席配分を決めた後、得票が多い候補者から順に当選させていくのです。 一方、「特定枠」とは、いわば「非拘束名簿」に「拘束名簿」を混じり込ませるような仕組みとなります。非拘束だけであれば、その党で候補者名をたくさん書いてもらった順に当選します。そこに特定枠をはめ込むと極端な話、ほとんど名前を書かれなかった人物が、特定枠であるがゆえに、候補者名で最多票を得た候補より優先して当選してしまう可能性があるのです。 ならば、分かりやすい拘束名簿式へ改めればいいと思われるかもしれません。実際に1983(昭和58)年選挙から採用されたこともあり、投票は政党名のみというシンプルな形でした。しかし当時の自民党が、この方式だと名簿上位にランクされた候補者が安心して、逆に下位の候補者が落胆して、いずれも選挙運動に熱心さを欠き、票が掘り起こせないと不安視して、2001年選挙から今の制度になった経緯があります。 自民党が、特定枠を合区で弾かれてしまった候補の救済に用いてくるのは確実です。非拘束のままだと当選が確約できませんから。2013年選挙で自民党の比例最下位当選者の候補者票は約7万7000票。人口最小の鳥取県でも有権者は約48万人なので楽々当選できそうですが、棄権と野党投票者を除き、さらに政党名ではなく個人名で投票された数だけで超えられるかというと、意外と高いハードルかもしれません。 「定数増など言語道断だ」という世論を気にするならば、比例代表の定数は変えずに特定枠を設置するだけにしたらいいという考えもありましょう。でもそうしたら、比例議員の当選者が特定枠分だけ減るので、それはそれで自民党内は収まらないでしょう。結果、今回のような改正に至ったと推測されます。