物価上昇率鈍化でFRBの年内利下げ観測強まる:利下げ確信すればドル高円安の流れに歯止め
米国商務省が28日に発表した5月米国PCE(個人消費支出)デフレータは、概ね事前予想通りの結果となり、先行して発表されていたCPI(消費者物価)の上昇率の鈍化傾向を再度確認させた。 前月比は0.0%、前年同月比は+2.6%と前月の同+2.7%を下回った。さらに、食料・エネルギーを除くコアPCEは、前月比0.1%上昇と2020年11月以来の低い水準となり、前年同月比は+2.6%(前月は同+2.8%)と2021年3月以来の低い水準となった。 この統計を受けて、金融市場は米連邦準備制度理事会(FRB)が年内に利下げを行うとの期待を強めた。スワップ市場が織り込む年内の利下げ幅は0.45%程度と、0.25%の利下げを1回分行う可能性を完全に織り込み、2回弱の利下げの可能性を織り込んでいる。9月までに利下げが行われる可能性は68%程度と、統計発表前の64%程度から上昇した。 米サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁は、この統計を受けて、「(金融政策が)十分に引き締め的であるという証拠が得られている」、「成長は鈍り、消費ペースも鈍化している。労働市場は減速し、インフレ率も下がっている」、「どこから見ても金融政策が機能していないとは思えない」などと語り、利下げ支持に傾いていることを示唆した。 他方、タカ派として知られるボウマンFRB理事は、「現在、雇用と労働市場は非常に堅調だが、インフレ目標にはまだ達していない」とし、年内の利下げについて慎重な姿勢を崩していない。利下げ実施についてのFRB内の意見は、依然として分かれており、金融市場も利下げの時期を見定めかねている。 28日の東京市場でドル円レートは1ドル161円台前半と、1986年12月以来、38年ぶりの安値水準を更新した。米国市場では5月米PCE統計を受けてドル円レートは一時160円台前半まで円高が進み、最終的には160円台後半で取引を終えた。 金融市場が近い将来の利下げを確信する段階で、ドル高円安はピークをつけることが予想される。市場が9月の利下げの可能性を強く織り込み、実際9月に利下げが実施される場合には、7月あるいは8月にもドル高円安はピークとなる可能性が考えられるだろう。 しかし、そこまでの間にさらに円安が進む可能性がある。円安の動きが強まれば、政府は再び為替介入に踏み切る可能性が高い。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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