職場だけでなくスポーツ界でも"パワハラ"?部活動にも潜む危険性とは...INAC神戸越智氏が語る、パワハラを起こさない3つのポイント
|気持ちが行きすぎるとパワハラ指導になる
パワハラによくある図式が、期待をかけた選手に対し、監督が過度な指導をした結果、選手がそれに耐えきれずに、心が折れてしまうケースです。指導者が期待を寄せるあまりに、不甲斐ないという気持ちをうまく伝えられず、選手を傷つけてしまうのです。 特に、キャプテンや試合に出ている選手に対しては、みんなの代表として試合に出ているのだから、もっとしっかりプレーしてほしいといった考えがあるのでしょう。その結果、より高い要求をしてしまうのですが、その選手の実力やメンタル面の耐性をしっかり見極めておく必要があります。 また、キャプテンを「見せしめ」として怒るケースがあります。その選手のためというよりは、周囲への波及効果を期待して、厳しく接する方法です。しかし、これも古い指導方法で、現代では適切ではありません。 「負けたときは監督のせい、勝ったときは選手のおかげ」といった言葉があるように、うまくいかないときの責任は指導者にあります。指導者は、どうしてうまくいかないのかを考えなければいけません。それをやらずに、キャプテンや選手のせいにして、大声で叱責するのは指導とは言えません。 サッカー界には、「自分に矢印を向ける」といった言葉があります。監督が選手にそう言う場面を目にしたり、実際に言われたりしたことがある選手は多いでしょう。その言葉の通りで、選手に責任を押しつけるのではなく、指導者も、自分の指導を振り返ることが大切です。これは、多くの指導者が心に留めておくべきことです。 キャプテンに矢印を向けると、指導は楽かもしれません。しかし、怒る回数と強さが増せば、その選手の心が折れてしまうのは当然のことです。矢印が本当の矢となり、心に突き刺してしまうのです。 私には、キャプテンを怒るという考え自体がありません。言い方は悪いかもしれませんが、それはある意味、期待していないからです。期待を強く持ちすぎると、厳しい指導につながるものです。「おまえなら、もっとできるだろう」などと、気持ちが行きすぎると、パワハラと呼ばれる指導になってしまうのです。 過度の期待は、パワハラの一因になります。企業の営業職に置き換えると、わかりやすいかもしれません。「今月中に売り上げ〇円を達成しろ」「〇件の契約を取ってこい」などと高いノルマを設定し、それが達成できるまで、徹底的に追い詰めるようなやり方は、まさにパワハラです。そうではなく、大切なのは、適切な目標設定です。例えば、過度に期待するのではなく、その人の能力の10パーセント増しを目標にすると良いでしょう。その中で、60パーセントの達成なら普通ですが、80パーセントを達成できたらすごいことですし、110パーセントまでいけたら最高。そのような見方をしてみるのはいかがでしょうか。 多くの指導者が、「彼はキャプテンだから」と言って、150パーセントも200パーセントも求めてしまいます。そのため、60パーセントくらいの達成率だと、カミナリを落としてしまうのです。 ベンチプレスを例に挙げましょう。自分の体重と同じくらいの重さを持ち上げられれば十分なのに、体重の1.5倍をいきなり求めて、「できなければダメだ」と言うのはおかしな話です。 無理なものは、無理なわけです。適切な目標設定と、設定のもととなる分析力が求められるのです。