職場だけでなくスポーツ界でも"パワハラ"?部活動にも潜む危険性とは...INAC神戸越智氏が語る、パワハラを起こさない3つのポイント
|それぞれに合わせたコミュニケーション
その選手にどれくらいの能力があるのか、適切な目標はどれくらいなのか、そこを見極めるのが、指導者の大切な仕事です。その見極めができていないのに、高い負荷をかけて、「なぜ、できないんだ」と責めるのはよくありません。「去年のキャプテンはできていた」といった比較も、もちろん不適切な発言です。 適切な期待値の設定が大切です。「期待しない」のではなく、「適切に期待する」こと。その結果、指導者と選手の間に、信頼関係が生まれるのです。 ただし、ここでまた、難しい問題が出てきます。指導者側がこの子はもっとできるはずだと思うことです。もっと強くアプローチしても、それに応えてくれるんじゃないかといった考えに陥ってしまうのです。 そのアプローチが本当に選手のためになるのかを常に考える必要があります。強いアプローチが、逆効果になることもあるわけです。選手にその気がないのに、無理強いするのは逆効果。チームにとってプラスになる戦力だと思ったり、その選手を伸ばしたいと思ったりするのなら、違うアプローチを考える必要があるでしょう。 私が勧める方法は「偶然の(偶然を装った)アプローチ」です。みんなの前で話したり、選手を呼び出して話したりするのではありません。例えば、その選手と廊下ですれ違ったときやその選手が1人でストレッチをしているときを逃さずに、「最近どうや?少し話ししよか?」などと声をかけるのです。この手法が、良い効果を生む可能性があるのです。 特に、一癖ある子は、みんなの前でさらし者にしたり、叱責したりしてはいけません。背後からそっとくすぐってあげるような方法が、効果的です。照れ屋だったり、あまのじゃくだったりするからです。 そういう子たちは、持っているものを出さなかったり、カッコつけたがったりします。でもそれは、周囲の目があるからカッコつけているだけ。だからこそ、周囲の目がない状況でのアプローチが重要なのです。 指導者として大切なのは、選手一人ひとりの性格や特性を理解することです。そして、その理解に基づいて、個別のアプローチを考えるのです。全員に同じ方法で接するのではなく、それぞれに合わせたコミュニケーションを見つけましょう。 例えば、ある選手には厳しく接することが、効果的かもしれません。でも、別の選手には優しく寄り添うことが必要かもしれません。また別の選手には、冗談を交えながら接するのが有効かもしれません。こうした個別のアプローチには時間と労力が必要ですが、各選手の潜在能力を最大限に引き出すには、避けて通れない道です。 指導者としては、常に観察し、学び、試行錯誤を続けていく姿勢が大切なのです。そうすると、チーム全体の成長も促進されることでしょう。結果として、選手たちとの信頼関係が深まり、より良いチームになっていくのではないでしょうか。 【今月のポイント】 1. 指導者も、自分を振り返る 2. 能力の10パーセント増しを目標にする 3. 周囲の目がない状況でのアプローチが重要 越智健一郎(おち・けんいちろう) INAC神戸レオネッサアカデミー統括部長 1974年生まれ、愛知県出身。愛知県立瀬戸高校から日本体育大学へ進学。愛知県の高校で2年間講師を務めたあと、京都精華女子高校(現在の京都精華学園高校)へ赴任した。2006年にサッカー部を創部し、監督に就任。サッカーの楽しさと勝利を両立させ、12年度の全日本高校女子サッカー選手権大会で3位、14年度の全国高校総体で準優勝に導いた。個々の技術の高さと判断力をベースにした魅力的なサッカーは、女子高校サッカー界で異彩を放った。21年度も全日本高校女子選手権に出場。22年からINAC神戸レオネッサでアカデミー統括部長を務める
サッカークリニック編集部