「大事な時にくしゃみが…」 センバツ出場の球児たちも花粉症対策
熱戦が繰り広げられている第96回選抜高校野球大会。18日の星稜(石川)―田辺(和歌山)戦で、聞き慣れないアナウンスが阪神甲子園球場に響いた。 【写真まとめ】盗撮に悩むチアリーダー 衣装変更に戸惑いも 「星稜高校の専徒(せんと)くん、目の洗浄のため、今しばらくお待ちくださいませ」 星稜の6番打者・専徒大和選手が二回の打席に入る前だった。何があったのか。試合後に専徒選手に聞くと、「花粉症の目薬をさしたら、コンタクトが外れてしまって……」。思わぬハプニングに見舞われていたことを教えてくれた。 ◇「集中するのが難しい」 春になると、くしゃみと目のかゆみが止まらない。鼻づまりで夜は寝られず、集中力が下がる。花粉症に苦しむ記者は毎年、センバツを見ながら気になっていた。スギやヒノキの花粉飛散量がピークになる3月中下旬、屋外でプレーする選手たちはつらくないのだろうか。 国民の半分近くが悩み、社会問題となっている花粉症。選手らはどんな対策をしているのか。アスリートが治療する上で注意すべき点はあるのか――。 「選手から『病院に行かせてください』と言われれば、行かせるようにしています。(花粉症で)練習中に、はなをかんでいる生徒も多い」。組み合わせ抽選会があった8日、敦賀気比(福井)の東哲平監督が教えてくれた。 この時期はより野球に集中できる環境を整えるため、チームで毎週月曜日を「耳鼻科に行っていい日」としている。抽選会があった週の月曜日も3、4人の選手が学校近くの耳鼻科に通ったという。 東監督自身も重度の花粉症に苦しむ。「今年はまだマシですが、昨年は本当につらくて。お尻に注射して1シーズンを乗り切りました」と明かす。 根本的な治療に取り組むのは、田辺(和歌山)の山本結翔(ゆいと)主将だ。昨年から「舌下免疫療法」を行っている。花粉の成分を含んだ薬剤を舌の下に投与し、花粉に免疫が過剰反応する体質を改善していく治療法だ。 山本主将は「鼻水がひどくて、野球になかなか集中できなかったので治療を決めました」。あと2年ほど続ける予定という。 花粉になるべく触れないのも一つの手だ。鼻づまりの症状が出るという学法石川(福島)の瀬川俊晃選手にとって、顔にかける花粉ブロックスプレーが必需品。「スプレーは結構大事ですね。症状があると集中するのが難しいので」と話す。 薬を服用する選手もいる。目のかゆみに悩む関東一(東京)の高橋徹平主将は、医師から処方された薬を朝と晩に飲み、目薬と点鼻薬も使う。新型コロナウイルス禍が落ち着いても、この時期はマスクが手放せない。「野球に集中している間はあまり気にならないですが、終わると症状が出てきます。屋外はキツいですね……」と漏らす。 東海大福岡の光富拓海選手も「大事な時にくしゃみが出たら(大変)」と、寝る前や症状が気になった時に点鼻薬を使う。大会前の甲子園練習でも、ベンチにティッシュやゴミ袋を持ち込む選手の姿が見られた。 ◇「バレンタインデー前後までには薬を」 花粉症は今や「国民病」と言われる。環境省などによると、全国の耳鼻咽喉(いんこう)科医師とその家族を対象にした2019年のアンケート調査では、42・5%の人が花粉症だと回答した。スギ花粉症を年齢別に見ると、最も多かったのは10歳代の49・5%で、高校生を含む若い世代に花粉症が広がっているという。 こうした状況を受け、政府は23年4月に関係閣僚会議を初めて開くなど、対策強化に乗り出した。花粉の少ないスギへの植え替え、飛散予測の強化、治療法の普及を対策の3本柱に掲げる。 国際医療福祉大成田病院耳鼻咽喉科部長の岡野光博教授は「ぜんそくや生活習慣病と比べても、花粉症を含むアレルギー性鼻炎は『労働生産性』が下がる傾向にある」と指摘する。鼻づまりなどによって集中力が低下すれば、野球のプレーに影響が出かねない。 アスリートにとっても、大事なのは早めの対策だ。岡野教授は「例年、花粉が本格的に飛び始める(2月14日の)バレンタインデー前後までには、症状が軽くても薬を使い始めると有効だ」と説明する。 その上で「症状が重く、プレーに影響がある場合には、内服や点鼻薬以外の方法も検討してほしい」と呼びかける。例えば、アレルギー反応を引き起こすIgE抗体をブロックして症状を抑える「抗IgE抗体療法」や、鼻の粘膜をレーザーで焼灼(しょうしゃく)する方法がある。 一方、アスリートは薬の服用に特に気を使う立場だ。副作用がパフォーマンスの低下を招く場合があり、プロスポーツなどではドーピング違反に細心の注意を払わなければならない。 実際、花粉症治療薬の一部には眠くなる副作用があったり、禁止物質が含まれたりしている。岡野教授は「自分はアスリートだと医師に伝え、ドーピングの危険性や、薬がパフォーマンスに与える影響などをよく話し合って治療することが大切だ」と強調する。【深野麟之介、下河辺果歩】