「釣りバカのハマちゃん」会社に必須な人材の理由 「古くさい管理職像」ではもはや通用しない
今後は、スタートアップでマネジメントの経験を積み、マネージャー専門職として会社を転々とするというパターンも出てくるかもしれません。そこに少人数のチームを任せるというのは、本書に書かれている未来像とも近いでしょう。 ■「選抜システム」から「団体戦」へ 昭和の企業の教育は、選抜システムでした。全員を育てるのでなく、「俺の背中を見ろ」としごきまくり、脱落者が出ても、残る人間がいればいいというやり方です。
新聞社も、以前は全員を地方に赴任させて、優秀な人間だけを本社に戻し、そうでない人間は内勤にするという人事システムでした。銀行の支店長レースなどは今もそうですが、人手がたくさんあるからこそできることです。 しかし、人手不足で少子化の時代になると、全員がちゃんと仕事をやれるようにしていかなければ成立しません。つまり、団体戦なのです。 その中で、人間関係を円滑にしなければ生産性は上がりませんが、だからと言って、昭和の「飲みニケーション」などをもう1度やるというわけにもいきません。
そこで、頻繁に行われるようになったのが、1on1ミーティングです。30人ぐらいの部下全員と、月に1度は必ず行うということで、毎日1on1をやっている管理職の人もいます。 日本企業は、この30年間、いかにも優秀な「スーパースター」を求め、縁の下の力持ちタイプの人をないがしろにしてきました。 しかし今後は、少人数のチームをいかにうまく育てるかという考えにシフトしていく可能性が高いでしょう。 そのためには、少人数のチームをうまく持ち上げてくれる管理職や、かつての「給湯室のおばちゃん」のような、人間関係のハブになる存在が評価されるなど、求められる人材が変わる可能性もあります。
■「他者中心」の人物が採用される時代へ 個人としては優秀だけれど、個人主義が強すぎて、周りの人をサポートしない人、何でも自分の成果にしたがる人もいます。しかし、今後は「他者中心」の人の方が採用されるということも起きるかもしれません。 昭和の共同体や組織論に回帰しているように見えますが、もう少し上の段階に来ているということです。 そういう意味で、本書は、経営者にとって会社の組織体制を考える参考になりますし、管理職にとっては非常に役立つでしょう。
経営者の示す将来ビジョンや、今あるミッションに対して、いかに円滑にうまく回していくかを考えるのが管理職ですが、現状は、平成時代の古い管理職像ばかりで、その概念を共有している本はありません。本書は、その理念を与えている一冊だと言えるでしょう。 (後編に続く) (構成:泉美木蘭)
佐々木 俊尚 :作家・ジャーナリスト