103万円「年収の壁」税収減補う財源議論置き去り 自民と国民が責任押し付け合い
年収103万円を超えると所得税が生じる「年収の壁」見直しを巡り、実施した場合の税収減を補う財源議論が置き去りだ。国民民主党が“場外”で言及する財源は心もとなく、詳しくは「政府、与党が考えるべきだ」との立場を強調する。これに対し、自民党は「野党も政策に責任がある」と反論する。具体論に踏み込まないまま政策合意の道筋だけが見えている状況だ。地方の首長は代替財源の確保などを求めくぎを刺す。 【画像】「税収減はたまったもんじゃない」“年収の壁”を巡る地方の主な意見 19日午後、公明党も加えた3党協議を終えた国民の浜口誠政調会長は笑顔をのぞかせた。自公が、今週閣議決定する政府の総合経済対策に年収の壁見直しを反映する姿勢を示したからだ。国民が衆院選で掲げた公約の柱で、経済対策への明記も主張。中身が詰まってきたとの例え話で、別の幹部は「あんの入ったまんじゅうが出てきた」と評価した。 政府は国民の主張通りに所得税がかかる年収の上限を178万円に引き上げた場合、減収は約7兆6千億円と試算。うち地方分は4兆円程度になるという。 政府が今年実施した1人当たり4万円の定額減税では自治体の減収分約9千億円の全額を特例交付金で穴埋めした。今回は恒久減税のため、より手当てが難しい。これまで4回開いた3党協議でも財源論に焦点は当たっていない。具体的な議論は、今後の税制改正論議で行うとみられる。 国民の玉木雄一郎代表は、財源の一案として、為替介入のための「外国為替資金特別会計」の剰余金を挙げる。2022年度は約3・5兆円に上る。政府は大半を23年度一般会計に繰り入れ、一部を防衛力強化にも充てた。財務省幹部は「市場の影響を受けるため、安定財源とは言えない」と指摘する。 玉木氏は、税収の上振れ分や予算の使い残しなど「しっかり精査すれば財源は確保できる」とも語っていた。現実には不用額は繰り越しており、上振れ分は水もので「恒久財源ではない」(同省幹部)。 地方からは懸念の声が大きくなっている。山梨県の長崎幸太郎知事は19日の記者会見で、同県と県内市町村で年287億円の減収となる試算を公表。「地方財政に影響を及ぼさない措置を考え、提案するのが責任ある態度だ」と財源議論が不十分な現状を批判した。 全国20の政令指定都市でつくる指定都市市長会も18日、政令市全体で約8千億円の減収が見込まれるとして「行政サービスの提供に支障を来す可能性がある。代替の財源を確保し、影響を及ぼすことのないよう強く求める」と意見表明した。 地方の“悲鳴”に対し、玉木氏は「総務省からの働きかけだ」と政府批判に矛先を向け「財源のあるなしではなく、国民の生存権の問題」と訴える。 政府、与党では103万円からの引き上げ幅を抑えることで必要な財源を圧縮する案が浮上する。世論を背に強気を崩さない国民民主党をけん制するように、自民税調幹部はつぶやく。「国民は税制にポピュリズムを持ち込んだ。彼らの主張通りに引き上げられるわけがない」 (岩谷瞬、大坪拓也)