ロバート キャンベルが語る日本文学の真髄「ひとつの言語体系で書かれてきた世界でも非常に稀な文学です」
文学にも影響を与えた感染症
平安時代から近世まで、日本文学の潮流を見ているキャンベルさんによると、大きく変化するきっかけとなるものが折に触れてあったという。 「それは感染症です。感染症に貴賤なし。人類の歴史は疫病との戦いの歴史ともいえますが、日本文学においても、社会がひっくり返るような疫病の流行を経て、人々の生き方が大きく変わり、文化が変わり、文学が変わっていったのだと思います」 紫式部は時の為政者、藤原道長の支援を得て『源氏物語』を執筆したが、『源氏物語』が書かれた直前には正暦・長徳の疫病(天然痘)が蔓延し、公卿の多くが死亡した。家督を継ぐ予定のなかった藤原道長が関白になりえたのも、疫病でほとんどの公卿が死に絶えたためであった。 江戸時代の戯作者、式亭三馬の『麻疹戯言』は、1803年(享和3)に江戸を襲った麻疹を題材にした小説だ。 「麻疹の蔓延で人々が右往左往する様子がおもしろおかしく描かれています。深刻な状況ながらも笑いで社会を浄化し、人々の気分を落ち着かせていたんですね。他にも感染症を機に書かれた文学は非常に多く、社会で一定の役割を果たしていたのでしょう」 日本文学は周期的に襲ってくる感染症の流行に大きく影響を受け、それを題材にした文学から学んだ人々にも大きな影響を与えていったとキャンベルさんはいう。 取材・文/平松温子 撮影/湯浅立志 ※この記事は『サライ』本誌2024年7月号より転載しました。
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