山本周五郎賞の小川氏「なるべくびっくりした人の服装で」
第31回三島由紀夫賞と山本周五郎賞(新潮文芸振興会主催)が16日、発表され、三島賞に古谷田奈月(こやた・なつき)氏(36)の「無限の玄」、山本賞に小川哲(さとし)氏(31)の「ゲームの王国(上・下)」が選ばれた。発表後、両氏が東京都内で会見し、受賞の喜びを語った。
■三島賞・古谷田氏
三島賞の選考委員・辻原登氏は「選考は非常に難航した」と明かした。最終的に受賞作の「無限の玄」と飴屋法水氏の「彼の娘」から「僅差なんてもんじゃない」ほどの僅差で、古谷田氏が選出された。当初から「無限の玄」を推していたという辻原氏は「自在な文学空間の作り方。細部の描写が秀逸だった」と絶賛した。 前回も「リリース」で三島賞にノミネートされていた古谷田氏は、受賞会見で「やっと結果が出てホッとしている」と笑顔を見せた。 「早稲田文学」増刊女性号に掲載された作品だが、日本の現在のジェンダー観について、言論の場と実社会では「落差が大きい」と指摘。「女性だけの雑誌を出すことが必要な一歩だったと捉えている」と話した。 作品は、5人の男だらけの家族によるマンドリンやバンジョーなどの旅回り楽団が登場し、何度も生き返る父親がほんろうする。「男性である、女性であるということではなく、一人の作家として作品を書きたいと思った。男性だけの作品を書いたのは一つの意思表示」と説明した。
■山本賞・小川氏
山本賞の選考も「久々の激論になった」と選考委員の石田衣良氏は語った。受賞作の「ゲームの王国」と呉勝浩氏の「ライオン・ブルー」が最終的に残り、「可能性の大きさ」と「前半の爆発的な面白さ」で小川氏が選ばれた。 神田の居酒屋で編集者と飲んでいたという小川氏は会見に紺色の丸首シャツで登場。「受賞して『びっくりしました』と言ってもスーツを着ていたら受賞する気満々じゃないかということになるので、スーツだけは着ないようにと決めていた。なるべくびっくりした人の服装になるようにした」と服装の意図を話し、笑いを誘った。 受賞作はポルポト時代のカンボジアを舞台にしたSF作品。大学で学んでいた人文学について「解がない問題を考える学問」だと説明した上で、「解を出すのではなく、何が分からないのかを問い続けることが大事。それをフィクションで突き詰めようとした時に、SFというジャンルは、問い自体の姿をえぐり出す力があると思っていた」と述べた。文明に関する言及も読み解けるが、「文明に関して何が正解か安易に答えを探すのではなく、個人個人が自分の頭で考えることが重要」だと作品に込めた思いを語った。