部下を抱え込んで離さない上司の遅すぎる後悔 春の人事異動「優秀な社員」に待ち受ける不運
ただ、異動計画を練るとはいえ、やみくもに取りかかっていては、いつまでたっても決まらない。私が所属していた部門だけでも、15もの部署があった。それゆえ、人事サイドは、着手する「プライオリティ」をひそかに持っていた。 最もプライオリティが高いのは、部門内でも“最重要”とされる、精鋭揃いのセクションだ。 たとえば、取り扱う金額が最も大きい部署や、最も利益を上げている部署、そのほか、部内でも中枢の企画系部署を“最重要”セクションと位置づけ、まずはその部署の人員配置から考えていった。
一方、業績や利益の大小に関係なく、今後社内的に強化すべきセクションもある。そのような部署の配置も優先的に取りかかった。 最初に決めるのは、部署のマネジメントを行う「次長・課長」のポストだ。そのポストの配置が決まれば、おのずと主任・係長以下の社員の配置も決まってくる。 では、「部長以上」の異動はどうするのか。私の会社では上層部の役員同士の間で決められていた。人事部はその結果報告を受けるだけで、決定までの内幕を知ることはできない。ここは人事担当が手を出せない“聖域”である。
部長以上のポストが内々に決まると、いよいよわれわれ人事担当の出番。次長・課長以下の社員たちの異動計画の立案に乗り出すわけだ。 ■優秀な部下を囲い込む部長と対決 とある部署で、課長として活躍していたAさん(34)という男性社員がいた。 非常に優秀でチームマネジメントにも長けており、成績もグングンと上げている。人事担当としては、Aさんに最重要セクションに異動してもらい、さらなる戦力になってほしいと考えていた。
語学が堪能なAさんは、海外拠点とのやり取りも多い最重要セクションに行けば、一段と実力を発揮できる。Aさん自身も、海外志向があることから、この異動は今後の海外赴任の布石にもなると考えた。 そこで、Aさんの他部署への異動について、直属の上司である部長Bさん(48)に打診。すると、柔和な顔が一変、険しい表情で即答した。 「ダメです。Aさんの異動だけは許可できません!」 強い口調で一刀両断されたので、私はひるみながらも理由を聞くと、「まだ下のスタッフが十分に育っていないし、今、彼に抜けられたら非常に困る」の一点張り……。