【7/3から新紙幣】肖像の人選、これまでは「過大評価」も? あまり女性が選ばれなかった「実用的な理由」とは
いよいよ本日7/3から、20年ぶりにリニューアルされた新紙幣が発行。肖像に選ばれた渋沢栄一・津田梅子・北里柴三郎についてはその功績も再注目されているが、過去の顔ぶれはどのようなものだったのだろうか? 戦前から肖像がどのような基準で刷新されてきたか、改めて振り返ってみよう。 ■戦前の顔ぶれは「神話色強め」&「過大評価」で刷新 令和6年(2024)7月3日、20年ぶりに新紙幣が発行される。表面の肖像に選ばれたのは、1万円札は「渋沢栄一」、5千円札は「津田梅子」、5000円札は「北里柴三郎」という顔ぶれで、実業界・女性・科学の3ジャンルから傑出した人物が選ばれた形である。 過去の顔ぶれはどうかと言えば、戦前の紙幣では「菅原道真」「和気清麻呂」「武内宿禰」「藤原鎌足」「聖徳太子」「日本武尊」の6人。戦後では「二宮尊徳」「岩倉具視」「高橋是清」「板垣退助」「聖徳太子」「伊藤博文」「福沢諭吉」「新渡戸稲造」「夏目漱石」「樋口一葉」「野口英世」の11人が採用されて、全部で16人となる(聖徳太子が戦後も続投)。 戦前の顔ぶれのうち、「菅原道真」は醍醐天皇による親政を支えた文官、「和気清麻呂」は称徳天皇から道鏡への皇位継承を阻止する上で重要な役割を担った功労者、「藤原鎌足」は乙巳の変と一連の新政の中心にいた重鎮である。 また「武内宿禰」は景行から仁徳まで5代の天皇に仕えた宿老、「聖徳太子」は摂政として十七条憲法や冠位十二階の制定を主導、「日本武尊」は東西の反抗的な有力者を平定した英雄とされているが、この3人の事績はあまりに神話色が濃く、武内宿禰にいたっては300年以上生きた計算になる。 菅原道真・和気清麻呂・藤原鎌足の3人に関しても、戦後は歴史的役割が過大評価されており、国民主権・主権在民の世には相応しくないとして、二度と紙幣に採用されることはなかった。 ■業績や知名度だけではなく、「偽造しにくい見た目」も重要 国家体制が刷新されただけあって、聖徳太子が続投されたのを唯一の例外と、戦後の紙幣に採用された顔ぶれは、近代日本の形成期における様々な分野の功労者が並んでいる。 「岩倉具視」「高橋是清」「板垣退助」「伊藤博文」は国内政治、「新渡戸稲造」は国際文化交流、「二宮尊徳」は社会活動、「福沢諭吉」は学問、「夏目漱石」と「樋口一葉」は文学、「野口英世」は医学の分野で著しい功績を残し、日本人ならその名前と功績を忘れてはならないレベルの面々である。 それにしても、紙幣肖像は何を基準に選ばれるのか? 実のところ、これには明確な基準はない。ただし、「業績があり知名度も高い実在の人物であること」、「偽造防止に適した人の目を引く特徴を持つこと」の2点が一応の目安となっている。 ひげを生やした人物が多いのはそのためで、過去に女性として唯一採用された樋口一葉は、ひげはもちろん黒子やそばかすもなく、24歳の若さで亡くなっているから顔の染みも白髪もなかったため、偽造防止が一番大変だったとも伝えられる。 今回の新札発行も一番の目的は偽造の防止。加えて、目の不自由な人への配慮、本物と偽札の判別が簡単につけられる工夫も随所に施されている。入手したら、旧紙幣と見比べてみると良いだろう。 画像出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」 (https://www.ndl.go.jp/portrait/)
島崎 晋