景気回復に「60歳以上にお金を使わせる」方策を 資産1400兆円をいかに消費に回すか
後悔しないためにもやりたいことにお金を
厚生労働省の国民生活基礎調査(2021年分)の個票をもとに、東京都立大学の阿部彩教授が集計したところでは、65歳以上の一人暮らし女性の相対的貧困率は、44.1%にもなるという。格差は広がっており、高齢者一般が裕福だというつもりはない。ただ、多くの個人資産をかかえる高齢者が少なからずいるのも事実である。では、そういう人が資産を貯めこんでおく意味は、どこにあるのだろうか。 知人で精神科医の和田秀樹氏は、「『もっとお金を使って、やりたいことをやっておけばよかった』という後悔を口にする高齢者が多い」と語っていた。厚労省によれば、2025年には認知症患者が700万人になる推計されるという。高齢社会において認知症は免れえない病だが、なってしまってから「やっておけばよかった」と後悔しても遅い。「やっておく」ことが認知症の予防につながるのであれば、なおさらだ。 物価が上がり、景気が停滞している局面では、備えは必要だと考える人は多い。だが、それは一定程度でいいはずである。2019年に金融庁から「老後には(夫婦2人世帯で)2,000万円の資金が必要だ」という資料がメディアに流れ、問題になったことがあった。だが、それを逆手にとって、それを超えた分は使うというのも一案ではないのか。そうしないと後悔するし、そうしたほうが元気になる。こういうことを広報するのも、必要なのではないだろうか。 高齢者が膨大な資産を切り崩して個人消費を刺激すれば、社会に明るい「気」が戻る。結果として景気が浮揚すれば、解決する問題は多く、むろん高齢者もその果実を得られる。 それをほかならぬ高齢者が意識してほしいし、景気対策を主導する政府も、対策の一環としてそのことを声高に訴えるべきだと思うのだが。 香原斗志(かはら・とし) 音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。 デイリー新潮編集部
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