景気回復に「60歳以上にお金を使わせる」方策を 資産1400兆円をいかに消費に回すか
ポストコロナでもお金を使わない高齢者
60歳を高齢者と呼ぶのは語弊があるが、もう少し高年齢の人たちの「気」が大きく失われるきっかけになったのはコロナ禍だった。それまではできるだけ外出し、積極的に社会に参加し、趣味や娯楽を楽しむことが奨励されていたのに、一転して「ステイホーム」が強いられた。しかも、高齢者ほど重症化しやすく、命にかかわるという脅し文句が添えられていたから、多くの人が専門家の勧めるとおりに自粛生活を送った。 その結果、足腰が衰えたり、フレイルになったり、刺激を受けない前頭葉が劣化したりした高齢者が多い。そうしたことから免れた人でも、コロナ禍のあいだに「積極的に社会に参加し、趣味や娯楽を楽しむ」という習慣が失われ、もとに戻れないというケースはよく耳にする。 「高齢者を守る」と謳いながら、実際には、その逆に作用してしまったコロナ禍の背策については、徹底的に検証する必要があるだろう。だが、同時に、そうした高齢者が、もういちど社会と交わる積極性を取り戻すための施策も、急務なのではないだろうか。それが高齢者の健康寿命の伸長だけでなく、景気の浮揚にも直結するからである。 私は仕事上、コンサートやオペラ、バレエなどの関係者と接する機会が多い。公演の主催者から頻繁に聞かれるのは「高齢のお客様が戻らない」という嘆きである。特別な人気公演については、以前もいまもよく売れるが、そうでないものは、50代以下の客足もすっかり戻ったとはいえない。だが、顕著に減ったのは60代後半から70代以上の客層だという。 書店に並ぶ「長生きのための本」では、できるだけ外出し、趣味や娯楽を積極的に楽しんだほうが、身体も脳も元気でいられると強調されているのに、なかなか出かけない。コロナ禍で外出の習慣が失われ、ポストコロナになると、今度は物価高続きで景気は足踏みし、世の中に明るいムードがないところで、消費を控えてしまう。要は、景気の先行きも見えない以上は、備えを維持するためにお金を使わない、ということだろうか。