「A型事業所で釣ってB型に流す」だますような手口 「個人の連絡先の交換は禁止」という規則が横行
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。 もしも入社した会社を4カ月で解雇、そのうえ待遇が下がる関連会社に転職するよう迫られたら――。だれもが理不尽だと思うのではないか。それは、障害のある人がサポートを受けながら働く就労継続支援A型事業所でも同じことだ。 【写真】事業所内の壁に張られていた「事業所内規則」の一部。もし一般企業で同じ規則があったら大問題だ
■「A型で釣ってB型に流す」だますような手口 関西の地方都市にあるA型事業所で働いていたタミオさん(仮名、52歳)は9月上旬、突然事業所を閉鎖することが決まったと告げられた。併せて12月に新たにオープンする同B型事業所に移ることに同意する書面へのサインを求められたという。 このA型事業所は4月にできたばかり。タミオさんが働き始めたのはその1カ月後のことだ。閉鎖の通告は、タミオさんの利用開始から間もないばかりか、開設から半年足らずの出来事でもあった。
その日、タミオさんら利用者は1人ずつ別室に呼ばれて説明を受けたという。説明したのはなぜかB型事業所を新規開設するという株式会社の社長。手渡された書面には、閉鎖の理由については何も書かれておらず、「B型事業所として新たにスタート」「B型事業所では皆さまのニーズに合わせた柔軟な働き方が可能」など聞こえのよい言葉が並んでいた。しかし、タミオさんの心中は穏やかではなかった。 「要するに倒産、解雇。B型事業所になれば収入は下がるに決まってる。入ってすぐに閉鎖なんて、履歴書を汚しにいっただけやないかと怒りがわきました。A型で釣った人を、安く使えるB型に流すとか、まるでだますような手口じゃないかとも思いました」
■雇用契約を結ばないB型事業所 A型で釣ってB型に流す、とはどういう意味か。ここで就労継続支援A型事業所と同B型事業所の違いについて説明しよう。 就労継続支援事業とは、障害のある人などが支援を受けながら就労に必要なスキルを身に付ける障害福祉サービスのこと。事業所には国から毎月、報酬(給付金)が支給される。A型とB型の違いは雇用契約の有無。雇用契約を結ぶA型事業所の利用者は最低賃金の保障や有給休暇の取得、労災保険・雇用保険への加入といった労働者を守るための法律が適用される。これに対し雇用契約を結ばないB型事業所の利用者は関連法の適用外。基本的には雇用契約を結んで働くことが難しい人が対象で、支払われるのは給料ではなく工賃という扱いとなる。