「A型事業所で釣ってB型に流す」だますような手口 「個人の連絡先の交換は禁止」という規則が横行
また、「利用者の中には軽い知的障害のある人もおりました。ちゃんと理解しないまま同意書にサインしてしまう人もおるんやないか」と心配にもなったという。 このため、タミオさんは数名の利用者と一緒に事業所側に対し、全員の前であらためて説明会を開くよう求めた。同時に所管の自治体や労働基準監督署、労働局などに足を運び、一方的に事業所閉鎖を通告されたことなどを伝えた。会社の実態を調べるために法人登記を取ったり、地元のメディアや弁護士に相談を持ち掛けたりもしたという。
するとタミオさんらの不信感を募らせる事実が次々と明らかになっていく。 まず、自治体担当者からは、事業所側から閉鎖、開設の報告は一切受けてないと教えられた。新規開設には遅くても3カ月前の連絡が必要なので、12月のオープンは不可能。事業者側はオープンのめども立っていないB型事業所への“移籍”を迫ったことになる。 また、A型事業所を運営する会社とその親会社、B型事業所を開設する会社の登記などから、一部の役員の名前が重なることが判明。B型事業所の会社は6月にできたばかりであることもわかった。「最初から組織ぐるみで、B型で働かせるために障害者を集めたのではないか」という疑いが強まったという。
タミオさんらがこうした疑念を抱くのには、もうひとつある事情がある。 今年4月から、事業で得た収益から給料を支払えないA型事業所に対する報酬が大幅に引き下げられるようになったのだ。国からの報酬や助成金目当てに事業を始める悪質業者の排除が狙いだったが、一方で全国で多くの事業所が閉鎖、大勢の利用者が解雇される事態が生じることにもなった。 タミオさんは「経営が厳しくなるとわかっていながらA型をオープンしてとっとと閉鎖。その陰でB型をつくるための会社をつくってるんですよ。どう考えてもおかしい」と語気を強める。
■行政機関は動いてくれない しかし、幕切れはあっけなかった。タミオさんは事業所閉鎖の通告から数日後、このA型事業所を辞めた。きっかけは、タミオさんらの行動をとがめた職員と口論になった際に、「利用者同士の連絡先交換は禁止という規則を破っている」と叱責されたことだった。 たしかに事業所には「個人の連絡先の交換は禁止」という規則があった。一方で車を持っていたタミオさんは近所に住む利用者と相乗り通勤をしていた。駐車場代を折半するためだ。職員は頭に血が上ったのか、事業所の閉鎖問題とは何の関係もない規則のことを唐突に持ち出し「連絡を取りあっただろう」と糾弾してきたのだという。