40代独身・超優秀な営業マン、急成長ベンチャーに執行役員として華々しく転職が決まったが…初日に出社しなかった「衝撃の理由」【転職業界のプロの実体験】
思わぬトラブルが起きた時のエージェントとしての立ち回り方
弊社の担当者は履歴書で住所がわかっていたので、本人のいない自宅まで様子を見てきてもらいました。私が指示したのは、「郵便受けをのぞいてくるように」ということです。もし郵便受けに新聞や郵便物がたくさん入っていれば、入社直前でありながら自宅にいなかったということになり、私生活に何らかの問題を抱えていた可能性が出てきます。そのあたりを探る意味もあって担当者に指示したわけです。 ところが、Aさん宅の外観を観察したところ郵便受けはカラで、ベランダに洗濯物もありません。これはやはり前日までは出社の準備を万端にして備えていたであろうと判断できました。出社初日に痴漢という心理が私には理解できませんでしたが、当日はこのようなドタバタ劇がありました。 その後の展開について詳細は省略しますが、この件では本が1冊書けるほど内容の濃い経験をしました。結果的にAさんは起訴されて裁判を受けることもなく、痴漢は冤罪ということで釈放されました。というのは、痴漢を仕掛けた男女のペアがいて、オヤジ狩りをしていたことが判明したからです。その後、被害届は取り下げられ、比較的早期にこの問題は解決することになりました。すったもんだはありましたがAさんは無事に着任し、その後6年半にわたって執行役員として活躍されました。 このような不運があったとしてもAさんにツキがあったのは、入社される会社がベンチャー企業で、こうした問題に対してのマニュアルが整備されていなかったことです。社内に「問題を起こした人」と断定する雰囲気が醸成されず、後ろ盾になった社長や役員の尽力も功を奏し、入社が許されたということです。 もうひとつ、痴漢行為は否認しても裁判になれば被告が負ける可能性が高く、メディアに報じられることもあり得ます。そのため事態の収拾が難しくなるのですが、早い段階で仕掛けた者たちがAさんを吊るし上げたという事実が判明したこと。この2点が幸運に作用したといえるでしょう。 この事例を振り返ると、候補者の名誉や利益を保全するのはエージェントであり、当局が最終的な判断をするまで私たちが推測で物事を決めるのではなく、できる限り時間をかけるようにして、候補者を守ることが重要だと思います。自画自賛するわけではありませんが、Aさんの事案でも結果的にそのようになったことを誇りに思っています。 福留 拓人 東京エグゼクティブ・サーチ株式会社 代表取締役社長