自宅庭の木が隣家を直撃して屋根破損…"予測不能な強風"でも賠償を命じる裁判所の"ちょっと怖い判断基準"
住まいやお金など家族を守るための完璧な防御法はあるか。仕事や職場の揉め事に遭遇したときの対処法とは。よもやのトラブルから身を守るために法律の知恵を味方につけよう。 【図表】自然災害による被害は賠償対象になるのか ■自然災害における不可抗力免責のハードルは高い 自宅の庭に生えていた老木が台風で倒れ、隣家に被害を及ぼしたら、修復には、誰がどう責任を取るのでしょうか。 民法717条では、土地の工作物の設置または保存に瑕疵(かし)があって、それが理由で他人に損害を生じさせたときには、被害者への賠償義務を課しています。この条文は、「竹木の栽植または支持に瑕疵がある場合」についても準用されます。つまり法的には工作物も樹木も同じ扱いなのです。 2015年の宇都宮地裁の判決は、まさに台風で杉並木の大木が倒れ隣家の屋根に損害を与えた事例で、破損した建物の修繕費用を支払うよう命じています。この木は、外見上は正常な樹木との区別がつきにくかったのですが、幹の内部は腐朽、空洞化していたため、裁判所は支持に瑕疵があったと判断をしました。 この法律のちょっと怖いところは、所有者の過失を問わないのですね。老木の中身は外から見ただけではわからないのですが、結果的に被害があれば支持に瑕疵があったと判断されてしまう。このときは屋根の修繕費だけで済みましたが、付随的な被害があれば、それも賠償対象になりえます。 また宇都宮地裁の判決文では、付近にある1万2000本余りの杉の並木の中で倒れたのはわずか34本にすぎなかったという原告側の主張にも注視しており、この事実も樹木の支持に瑕疵があったという判断の材料になったようです。 仮に他の街路樹もすべて倒れるほどの大規模自然災害が原因であれば、不可抗力免責の可能性があります。が、自然災害における不可抗力免責のハードルは高いのです。例えば阪神淡路大震災の地震で賃貸マンションの1階部分が倒壊し死傷事故が起きた際にも、地震では新耐震基準が想定していない力が働いたとされているにもかかわらず、神戸地裁は賃貸マンションにも欠陥があったとして、所有者に損害全体の5割の賠償(残りの5割は地震の影響)を命じました。