米中ロ「新大国時代」高まる摩擦 現代史の転換期【2016年国際展望】
●分断される勢力圏
こうしてみたとき、ロシアの復権と中国の台頭の加速は、米国のリーダーシップの衰えによって促された一方、その結果として、米国にあらゆる手段を用いて、その覇権を握らせようとする動機づけを与えたといえます。中国やロシアを排したTPP交渉の妥結は、その象徴です。 冷戦終結後、グローバル化のなかで世界は一つの市場になりました。さらに、国家間の問題をルールで処理するための仕組みも整えられてきました。 しかし、グローバルな市場経済化が過剰競争をもたらしただけでなく、2008年の発生した世界金融危機の後遺症も手伝って、主だった大国は自らの勢力圏を確保する方向に舵を切りつつあります。 とりわけ、国境を超えた投資や貿易の増加が、中国の爆発的な経済成長や、天然ガス輸出を通じたロシアの復権を促すなど、グローバル化が中ロに力を蓄えさせる結果になったこともあって、これまでグローバル化を先導してきた米国自身の「利益確保」への方針転換が顕著です。TPP交渉の主導に加えて、2015年12月19日、世界全体での自由貿易のルール化を進めてきたWTOドーハ・ラウンドが、先進国なかでも米国の強い反対によって、次回開催を決めないままに閉幕したことは、これを象徴します。 これらに鑑みたとき、米中ロの間で大きくなる摩擦は、冷戦終結後の現代史の大きな転換期を映し出しているといえるでしょう。
------------------------------------------------------ ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬社)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo! ニュース個人オーサー。個人ウェブサイト