米中ロ「新大国時代」高まる摩擦 現代史の転換期【2016年国際展望】
●米国の巻き返し
ロシアの復権と中国の台頭の加速に直面して、米国も巻き返しを図っています。 このうち、まずロシアについて。米国はウクライナ情勢をめぐる対ロシア経済制裁を未だ解除していませんが、シリア情勢をめぐっても、ロシアがアサド政権の存続のための既成事実を作り始めているのに対して、あくまでアサド政権を容認しない姿勢を崩していません。 EU各国のなかには、ウクライナ情勢やシリア情勢をめぐって、ロシアとの妥協を図る動きが活発です。これと対照的に、米国がロシアに対して強硬な姿勢を崩さない背景には、これまでの姿勢を簡単に転換することで、ますますロシアのペースになることへの警戒があります。 このようにロシアへの強硬な姿勢を維持する一方、米国はロシアのアキレス腱ともいえるエネルギー経済に揺さぶりをかけています。2015年12月18日、米国は40年ぶりに原油を輸出することを発表。2014年半ばから値下がりし続けていた国際的な原油価格は、米国から大量のシェールオイルが輸出されることによって、さらに下落するとみられます。 これは原油輸出を大きな資金源としているISだけでなく、やはり天然ガス輸出が経済の生命線であるロシアにとっても、大きな痛手になります。短期的な採算を犠牲にしてまで原油価格をさらに引き下げることは、米国にとって、ロシアへのからめ手ともいえるのです。
その一方で、米国は中国に対しても、その台頭を警戒する姿勢を隠しません。オバマ大統領は2011年、安全保障政策の重点を、それまでの対テロ戦争からアジアに移すことを表明しました(リバランス)。その方針は、中国の海洋進出を主に念頭に置いたものです。 大統領選挙の予備選で、クリントン候補は中国への警戒感を隠しておらず、仮にクリントン候補が大統領選挙で勝利した場合、リバランスの方針は大きく変化しないとみられるのです。 米国は安全保障分野だけでなく、経済分野でも、台頭する中国への対策を構築し始めています。2015年10月5日に大筋合意に達したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、それが実現すれば、世界全体のGDPの約40パーセントを占める巨大市場が誕生することになります。その域内で自由貿易が進むことは、域外の各国にとって結果的に不利になります。言い換えると、中国が参入していない状況で、将来の巨大市場における貿易ルール作りが米国主導で進められたことは、世界中で市場を開拓し続ける中国にブレーキをかける効果があるといえます。